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トルコ人の大事な行事「クルバン・バイラム」

こんにちは、定住旅行家のERIKOです。トルコに滞在中、イスラム教最大のお祭りの一つである「クルバン・バイラム」(クルバン犠牲祭)を体験しました。

このお祭りはラマダン明けの「ラマザン・バイラム」と並ぶイスラム教の二大宗教行事の一つで、トルコでは1年で最も大事な行事です。クルバン・バイラムは旧約聖書(創世記22章)やクルアーンに出てくる「イサクの燔祭」に由来します。羊や牛をアッラーへ生贄として捧げることで信仰心を表し、その肉を貧しい人に与えることで、助け合いの精神を育み、受け継ぐものと言われています。

以前、イスラム教が国教のイランに二度ほど滞在しましたが、イランの日常生活では、信心深い人に出会う機会はとても少なかったです。トルコは世俗国家とはいえ、イスラム教を名乗る人は、しっかりと信仰心を持っている人が多いと感じます。

クルバンの目的とは?

この犠牲祭で大事なことを滞在先の家族の家長メフメッドさんは次の6つとして挙げてくれました。

1、共有すること

2、高齢者を敬うこと

3、喧嘩などで疎遠になっている人と仲直りする

4、子どもたち、動物を傷つけてはいけないことを学ぶ

5、人との絆を深める

6、隣人との良好な関係を築く

クルバン・バイラムはヒジュラ暦(イスラム歴)の第12番目の月に行われます。グレゴリオ歴だと毎年11日ほど前倒しになります。今年2023年のクルバン・バイラムは628日~71日の4日間行われました。

掃除、墓参り、生贄

クルバンの準備は数日前、ものによっては数ヶ月前から始まります。まず家の中の清掃。絨毯やキリムを天日干しにしたり、家の中を大掃除します。


前日には先祖の墓参りもしました。トゥルケ家の墓は村の集合墓地にあります。家族ごとにスペースが仕切られており、その中に個人の墓があります。メフメッドさんのお父さんは4年前に他界されました。


お墓を水で洗い、クルアーンの一節を読み上げ、メッカの方角に向かって祈りを捧げます。お墓そのものがプランターのようにお花や植物が植えられているのが特徴的でした。


クルバンのメイン行事とも言える、生贄。屠殺する動物は、牛や羊で、家庭によっては何ヶ月も前に購入して、庭などで大切に飼育しする人もいます。トゥルケ家でも毎年そのようにしているそうですが、今年はお父さんの体調が優れず、今年だけは屠殺場に頼んだそうです。

羊や牛(8ファミリーで1頭買う)はサイズや重さによって値段が違うようですが、大体一頭当たり4,000リラ~10,000リラするそうで、ほとんどの人たちが8,000リラ以上のもの買うのだそう。

クルバン当日の朝は、男性はモスクで、女性たちは自宅でお祈りを捧げます。クルバンの日には特別な礼拝が行われます。モスクから帰ってきたメフメッドさんは、「今日からみんな仲良くしなければいけない」と言っていました。
クルバンの日は、喧嘩中や問題がある人びとがモスクで仲介者を通して仲直りをさせられるのだそう。モスクを出てからも挨拶を交わしたり友好な関係を保たなくてはいけないという決まりがあります。イランのお正月でも年長者が仲介に入ってそのようなことが行われますが、人間関係を円滑に保つための素晴らしい習慣だと思いました。

お祈りが終わった後、屠殺場へ向かいます。羊の屠殺ははじめてみましたが、到着して車を降りた途端、暑い気候で温められた血の臭いが鼻につき、思わず口を覆いましたが、数分後には気にならなくなりました。


番号が振られた羊たちが檻に入れられており、順番がくると「アッラーの御名において」と唱えながら静かに喉元にナイフが入れらていきます。

メフメッドさんは「これは信仰でもなんでもない、Capitalismの骨頂だ」と言っていましたが、システム的に次々と屠殺され解体される羊たちをみながら、犠牲祭本来の命の大切さを感じる空気感はなかったようにも感じました。

豪勢な朝ごはん


クルバン当日の朝、家族は年長者から順々におばあちゃんのフスニアさん、メフメットさん、ギュライさんと手の甲にキスをし、おでこをつけ、キスをして抱きしめる挨拶をします。これはel opmek(エル・オピュメキュ)と呼ばれるクルバンのときに行われる敬礼。私も教えてもらい、フスニアさんや年長者に挨拶しましたが、彼らの感心が混じった喜びの笑顔を見ると、これがとても大切な行いだということが理解できました。



敬礼の挨拶がひと段落すると朝ごはんです。トルコの朝ごはんが豪勢なことは以前の食事の記事にも書きましたが、クルバンの日の朝ご飯はさらに豪華なんです!

トマトオムレツ、とれたての野菜、オリーブ、ポテトやズッキーニの、唐辛子のフライ、チーズなどそれぞれの食材を食べていたらすぐ満足してしまいそうな量がテーブルに並びます。

貧しい人に富を分配する日


食事が終わると、屠殺して持ち帰った羊を細かく解体します。部位ごとにナイフを入れる位置が違うので、この知識も何度も羊を解体していないとわかりません。

部屋の中はジンギスカンのにおいで充満していました。メフメットさんとギュライさんは手際良く作業を進める中、見学に来た子どもたちはにおいが苦手なようで、終始鼻と口を覆っていました。現代っ子は屠殺や解体苦手な人が多いようです。

細かく切り分けた肉は、調理をして保存したり、近所に暮らすクルバンのお祝いができない貧しい家庭に配られます。配られる対象となるのは、旦那さんを亡くした未亡人や病気などを患っている人などです。

配りに行くのも同行したかったのですが、助けた人も助けられた人もその行為をした後は、それを忘れなければならないという決まりがあるようで、誰が誰を助けたということを周知してはならないということでした。

ハロウィンのような子どもたちの習慣


家で作業をしていると、時折玄関から「イイバイラムラル!」(良いお休み)と元気な声が聞こえてきます。家族は事前に充備したお菓子のバスケットを差し出し、子どもたちに渡していました。これはバイラムラシュマ(bayramlasma)と言われるもので、近所の子どもたちが挨拶がてらお菓子をもらってまわるという習慣です。親しい子どもには、お年玉のようなお小遣いも渡していました。

親戚周り


結婚報告を兼ねて挨拶にやってきた親戚

クルバンは4日間続きますが、2日目以降は親戚や友人たちが家を訪ねてきたり、訪ねたりします。この時にチャイやトルココーヒーと共に振る舞われるのが、バクラバです。日本でも松屋銀座で販売開始され、瞬く間に人気のスイーツとなりましたね。
バクラバはクルバンの時に食べられる伝統のお菓子で、何層もパイ生地を重ねて焼き、その上からシロップをかけて食べられます。上部のサクサクとした生地の食感と、下部のしっとりと浸かったシロップの部分が口の中で合わさり、病みつきになるおいしさです。家庭によってはくるみやピスタチオを入れてものもありました。

親戚周りは長居しても30分程度でさくさくと周ります。普段忙しくしている皆さんが、これを機に結婚報告や子どもの問題などの情報を共有したり、相談したり、慰め合ったりする大事な時間だと思いました。またその家で出会う新しい人との出会いもあり、人との関係が広がっていく場でもありました。

このクルバンはイスラム教の宗教的な行事ですが、トルコは世俗国家で、宗教に熱心な人、関心が薄い人など人によってまちまちです。しかし、信仰度合いにかかわらずクルバンは誰しもが行事に参加します。普段モスクへ行かない人も、信仰心はないと公言する人も、この日は誰もがクルバンの日のしきたりに沿って行動します。それは、日本人がお正月に初詣に行くことやお盆にお墓参りに行くことと似ているかもしれません。

伝統の一つとして、生活の中でのハレとケのメリハリとして、トルコ人の文化に根付いているように思えました。