ちきゅうの暮らしかた ERIKO OFFICIAL WEB SITE

グリーンランドお年寄りの暮らし

こんにちは、定住旅行家のERIKOです。世界最北の島グリーンランドに来ています。
全国5万6千人が暮らすこの国には、年金授与者である66歳以上が5,077人います。グリーンランドは日本と同じく高齢化が進んでいる国の1つで、年代別では50代が一番多い割合となっています。
私が滞在しているイルリサットのダービセン夫婦ジョンさんのお母さんである、デンマーク人のボーディルさんは85歳。滞在中は彼女の家で週一度食事をさせてもらったり、いろんなお話しをさせてもらいました。ボーディルさんの生活の様子から見えてくるグリーンランドの高齢者の事情について触れてみたいと思います。

 

親が高齢になっても同居をしない

ジョンさんのお母さんボーディルさんです。彼女はデンマーク人で、グリーンランド人の旦那さんと結婚し、当時は東グリーンランドのアクトという村に暮らしていました。二人の息子さんを出産、ジョンさんが8歳の時、仕事の関係で現在暮らす西部のイルリサットへ移住しました。その後、旦那さんのアルコール問題などを原因に離婚し、現在は一人暮らしをしています。彼女は定年を迎えるまで看護師として赤十字で働いていました。

グリーンランド人の家族同士の結びつきは非常に強いですが、成人(18歳)を迎えると親元から離れて生活するのが一般的です。一方で昔を遡れば彼らの先祖であるイヌイットは、大きな家に数世代の大家族で暮らしていたので、(かまどはいくつか設けられていたため厳密には核家族ともいえます)現在のグリーンランド人の居住形態は、デンマークのそれに近いと思います。

例え親が老年になり、生活の助けが必要な場合でも子どもや親族が同居することはなく、老人ホームなどの施設に入ります。しかし一緒に暮らさなくとも、会う頻度は高く、頻繁に行き来をし食事をしたりします。
現在ジョンさんのお父さんは老人ホームに入居されていますが、ダーヴィセン夫婦は毎日様子を見に通っていますし、ボーディルさんとは最低でも週に一度は食事を共にします。

趣味を仲間と分かち合う

ボーディルさんの生活は実にアクティブです。身体を動かすのが好きな彼女は、月曜は朝8時からフィットネスセンターで1時間の運動しています。理学療法士の資格を持ったトレーナーが高齢者向けにレッスンを行うサービスはイルリサット市が高齢者向けに提供しているものの一環です。
空いた時間にはノルディックポールをつきながらトレッキングに出かけます。今年に入ってから腰に不調が出ているそうで、最近は頻度が減っているようですが、それを感じさせないほど活動的です。

週に何度かは友人たちと集まって編み物をします。編み物はデンマークから伝わったものですが、元々縫い物が生きていくための手段の一つであったイヌイットの人たちにはとてもフィットしたのでしょう。グリーンランドでは編み物がデンマークよりも盛んで、私が出会った全ての女性が編み物をしていました。

こちらはボーディルさんの息子家族たちの写真ですが、彼らが着ているセーターは全てボーディルさんの手縫いです。本当に素敵ですね!毛糸はアルパカの素材を使用しているそうです。

旅行も趣味の一つだそうで、これまでに訪れた国は実に50カ国以上になるのだそうです。パンデミックの2年前にはベトナムへ孫たちと旅したそうです。たくさんの旅の中でも特に印象に残っている国はブータンだそうで、訪問した時には国王と王妃とも会われたそうです。若い頃には英語の勉強でニュージーランドへ留学をしていたそうで、その時に同じクラスだった日本人の方からの手紙が大切に家に飾られていました。

招待者が喜ぶ博物館のような家

こちらはボーディルさんが暮らすお家。一人で暮らすには大きすぎるくらいの広さです。
住居とは別に倉庫があり、冷凍庫にはジョンさんたちが獲ったカリブー、アザラシ、クジラの肉などが保存されていました。彼女の家のようにグリーンランドの家の中には冷蔵庫しかなく、冷凍庫は倉庫に大きなクーラーボックスが設置している家がほとんどです。

家の中は小さな博物館のようです。東グリーンランドの仮面、トゥピラックと呼ばれる呪術に使う人形、セイウチやクジラの骨などが飾ってありました。

こちらはイッカクと呼ばれるクジラの仲間の牙です。日本では新車が一台買えるほどの値段がついていますが、グリーンランドではよく見かけます。中でもボーディルさんの家に飾られていたものは私が見た中でも立派な牙でした。
イルリサットでは11月の下旬にサッカクという村の近くにイッカクがやってきます。25頭の捕鯨枠があり、毎年ジョンさんも猟に出かけています。


こちらはボーディルさんが作ってくれたアザラシの煮込み料理。ジョンさんと私が猟で獲ったアザラシです。味はほんのりイワシの味が香るしっかりとしたお肉。とても不思議なんですが、クジラやアザラシ、トナカイ肉を毎日モリモリ食べていると、腸の動きがとても良くなるためか、肌の調子がよくなり痩せました。新鮮で人口調味料が一切使われていないせいか、身体が浄化されていくような感じがするのです。
ボーディルさんはもともとデンマークで生まれ育ったため、彼女の家族や親戚のほとんどはデンマークで暮らしていますが、彼女はグリーンランドでの暮らしを選びました。その理由は「ここの澄んだ空気と自然が大好きだから」。たまに木々の緑の匂いが恋しくなるそうで、彼女の家の中にも緑の観葉植物がたくさん置いてありました。

私がイルリサットを去る最後の日も空港に見送へ来てくれました。飛行機の中で食べなさいとパンを持たせてくれ、彼女がアザラシの骨で作ったトゥピラックもプレゼントしてくれました。

◎太陽の昇らない冬の時期の北極圏で冒険を続ける角幡さんの著書