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休む天才 デンマーク人の休日の過ごし方

こんにちは、定住旅行家のERIKOです。デンマークのコペンハーゲンに暮らすローンボルグ家に定住旅行しています。こちらでの生活で気づいたことの一つに、デンマーク人は休みの過ごし方が上手だなぁと感じることがあります。ライフワークバランスを取る上で欠かせない休暇の過ごし方のお手本になるような習慣を、ローンボルグ家の休み方から見てみたいと思います。

休むと言えばヒュッゲ “Hygge”


デンマークの定番料理クリームポテト「flødekartofler」
デンマーク人の休日、暮らしや人生に欠かせないものであり、人びとと社交的に交わるときに大きな役割を担っているのが「ヒュッゲ」と呼ばれる習慣です。
スローライフ、ロハス、ライフワークバランスなどが注目され始めた頃、北欧の人びとから学ぶ幸福のあり方の一つとして、日本でもこの言葉をよく見かけるようになりました。
ヒュッゲはさまざまな意味に訳されますが、デンマーク人社会学者のジュディス・フリードマン・ハンセンは著書The Proxemics of Danish Daily Lifeの中で、「ヒュッゲは安全でリラックスしたマインドの状態で、起こりうる小さな楽しみに心地よい幸福を感じること」と定義しています。ヒュッゲの語源は明確になっていないそうですが、古ノルド語のhygga(心地よさ)から派生して、1950年代にHyggeとなったという説が有力だそうです。
個人的にヒュッゲを実際に何度も経験して感じるこの言葉の意味は、「心地よく幸福な時間を仲間を分かち合うこと」ではないかと思います。

デンマーク人は本当に幸せなのか


滞在中、デンマーク人に「幸せですか?」と幾度も尋ねたことがありました。デンマークは世界でも幸福度指数が高い国として紹介されているのを目にしたことがあったからです。しかしほとんどの場合彼らの返答は、少し考える間があった後に「天気がいい時は幸せ」、「人と集まっている時は幸せ」などいう条件つきの答えが返ってきたのです。後で知ったのですが、デンマーク語には「幸福」に値する言葉がなく、それに近い言葉としてLykke(毎日の幸せ)が使われているようでした。この言葉から、何かの理由がなければ幸福という状況が成立しないということが表されている気もします。そしてその幸せを構成する理由の一つとなっているのが、人と集うことではないかと思います。
週に1度の頻度で、家族、同僚、友人と集うヨーロッパ人は約60%、デンマーク人は78%と他のヨーロッパ諸国と比べると頻繁に人と会っているようです。
滞在先のローンボルグ夫婦は休みになると、小学校からの同級生、娘のママ友、パパ友の会、両親、親戚、ハンドボール仲間などと頻繁に集ってはヒュッゲを行なっていました。
デンマークの義務教育は9年間あり、その間一度もクラス替えがありません。そのため、多くの人が小学校時代の同級生と年齢を重ねても深い交流を続けています。
また国教はキリスト教のルター派とされていますが、ミサへ参加する人口の割合などからも若者をはじめ宗教熱心な人が多い国とは言えない気がします。しかし、教会などに集まって行われる宗教行事は積極的に行われています。会へ参加する人に理由を聞くと「人に会えるから楽しい」という答えが返ってきたので、信仰心よりも人との集いが目的の一つとなっているように見受けられます。

社交場の中心となる家


                      アンティーク家具が素敵なローンボルグ家のおばあちゃん家
他のヨーロッパ諸国の場合、人びとの社交となる場は、バー、レストラン、カフェが圧倒的に多いそうですが、デンマークでは71%の人たちが家が社交場の中心と答え、家でのヒュッゲ(hjemmehygge)を行なっているようです。ヒュッゲは大人数で行う場合もありますが、デンマーク人の約半数の人がヒュッゲは3、4人で行うのがベストだと思っているそうです。
住まいであると同時に人が集う場所となる家には、人びとが心地よさを感じるための雰囲気づくりが重要になります。目に優しい照明器具、ゆったりとしたソファー、暖かさを感じる木製テーブルなど、自然と家具のクオリティやデザインが重宝されるようになるのは自然なことのように感じます。
また「どの季節にヒュッゲ感を感じやすいか?」というアンケート調査では、「秋と冬に最も感じる」という回答が得られたようで、家と言う場所が活躍しやすい季節にヒュッゲ感を感じる人が多いようです。

ヒュッゲに欠かせないアイテム


心地よい空間づくりのために欠かせない家具以外にもヒュッゲで大切なアイテムがいくつかあります。その一つがキャンドルです。デンマークではどの家庭にも必ずあるものでもあり、種類も豊富でついつい欲しくなってしまうほど多色で素敵なデザインのキャンドルが売られています。キャンドルは灯すだけで、周囲の雰囲気を暖かにする効果もありますが、この不規則な炎の揺らぎは快感を与えるとも言われています。最近では電気式のキャンドルもよく見かけるようになりましたが、キャンドルを燃やす際には微粒の水分(マイナスイオン)が放出されているそうで、自然の中にいるようなリラックス効果も得られるようです。また美味しい食事やデザート、暖かい飲み物などもヒュッゲを行うときは大切なものです。

デンマーク社会を映し出すヒュッゲ


ヒュッゲでは時間を気にすることなく、家族や仲間たちとたわいもない話をしたりして穏やかに過ごします。私が個人的に感じたヒュッゲを行うときの暗黙の了解がいくつかありました。
まず政治の話はしないこと、お互いの意見がぶつかりあう可能性のあるトピックは避ける、自慢話をしないことなどです。特に最後のポイントはヒュッゲの時だけでなく、デンマーク社会で生きていく上でも重要なポイントもあるように思います。平等精神が大切にされるこの国では、人よりも秀でること、人と違うことがポジティブに捉えられにくい傾向があります。日本で言う「出る杭は打たれる」に似た考え方です。

ローンボルグ夫婦は旅行が大好きで、長期休暇には海外旅行をよくするのですが、その様子をSNSなどにアップすると周囲の人たちに自慢だと受け取られる可能性があるため、いつからか写真をアップしないようにしたと話していました。またデンマークには「Janteloven(ヤンテ・ロウ)」と言う考え方があります。これは作家のアクセル・サンデモーセ氏が1933年に「En flygtning krydser sit spor(逃亡者はおのが轍を横切る)」と言う小説の中で提唱した架空の十箇条ですが、デンマーク人の精神に深く根ざしている考えの一つです。

こちらがその十箇条(出典:Wikipedia)

  1. 自分がひとかどの人物であると思ってはいけない
  2. 自分が我々と同等であると思ってはいけない
  3. 自分が我々より賢明と思ってはいけない
  4. 自分が我々より優れているという想像を起こしてはいけない
  5. 自分が我々より多くを知っていると思ってはいけない
  6. 自分が我々を超える者であると思ってはいけない
  7. 自分が何事かをなすに値すると思ってはいけない
  8. 我々を笑ってはいけない
  9. 誰かが自分のことを顧みてくれると思ってはいけない
  10. 我々に何かを教えることができると思ってはいけない

なぜ架空の小説の中で説かれたものが、現実の人間の社会に影響を与えるようなったか不思議ですが、この考えが平等主義を美徳とするデンマーク人の精神に合っていたのでしょう。

ヒュッゲは物質的な富を感じることではなく、皆んなが同じ立場で目の前の小さな幸せを分かち合う、内向的な社交の一つであり、デンマーク人の休日の過ごし方の代表的な行事といえると思います。

ヒュッゲの弊害


                  同じマンションに暮らすチルダース家 左がアメリカ人のエミリーさん
仲間ができると強い絆で結ばれるデンマーク社会ですが、そのマイナス点として、新しい人をグループに招き入れにくくなることがあります。ローンボルグ家と同じマンションに、デンマーク人と結婚したアメリカ人女性のエミリーさんが暮らしていました。彼女はこのデンマーク特有の小グループ社会システムに馴染めず、デンマーク社会へ馴染むまで長い時間と努力、孤独を味わったと話していました。
以前滞在していたスペインのバスク地方にも「クアドリッジャ」と呼ばれる同性同士の親友グループ制度たるものがあり、日常的な社交生活はクアドリッジャを中心に営まれるため、どこかのグループにしていない人は人との付き合いがなくなってしまうと言う世界をみたことがありますが、デンマークのヒュッゲにもそに近い形を形成する働きがあるのかもしれません。

今回は休みの取り方の話からヒュッゲの深い話になってしまいましたが、デンマークでは暮らしの大切な一部として大きな役割を果たしています。

◎ローンボルグ家にプレゼントしてもらったヒュッゲの本。日本語にも翻訳されていました!