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加速するインフラ、天災、移住を決意するトルコ人の若者

こんにちは、定住旅行家のERIKOです。首都のイスタンブールで滞在しているのは、弁護士として働くエブベキルさんのお宅。彼は現在、アメリカのローエージェンシーで勤務しており、トルコのイスタンブールの自宅からリモートワークをしています。トルコではここ数年、国内の経済状況悪化に伴い、多くの若者たちが移住する傾向が強まっています。

トルコの国際移住統計局の調べによると、2022年には46万人のトルコ人が国外へ移住し、最も多かったのは25~29歳でした。エブさんは現在26歳。彼の生活からトルコの若者の働きかたについて見てみたいと思います。

インフレの加速で変化する生活

 

2023年の大統領選挙以降、トルコのインフレ率は凄まじい勢いで上昇しており、今年の7月は47.8%にまで上がりました。日々高騰する商品価格、交通費などで、国民の生活は圧迫されています。エブさんが現在暮らすアパートは、インフレが始まる数年前から借りており、幸いにも家賃はまだ引き上げにならずに済んでいるようです。3LDKの間取りで月17,000リラ(約90,000円)。しかし、今同じ条件で借りたなら、最低でも50,000リラはするとのこと。


エブさんはガラタサライ大学の名門法学部で法律とフランス語を学んだのち、弁護士免許を取得。1年のインターンを経て、トルコ最大手のローエージェンシーで弁護士として働いていました。しかし、この度のインフレの加速で、このままトルコの企業に勤め続けることのリスクを感じ、アメリカのローエージェンシーに転職しました。現在は自宅からリモートで、アメリカ時間に合わせて働く生活をしています。


イスタンブール市内の宝石店は金を買う人でいつも混み合っている

「今回の大統領選でトルコが変わるかもしれないという期待を持っていましたが、残念ながら経済状況は悪化しました。僕の友だちもほとんどがヨーロッパやアメリカへ移住しています。またリラの価値が暴落しているので、給料が入るとすぐに金か外貨を購入して、なるべくリラを持たないようにしています」

オーバーキャピタリズムを感じる果ての若者の逃げ場



愛読書はロシア文学

仕事が終わると、分厚い本を抱えて、近所に住む友だちとカフェへ行って本を読んだり、映画を観たりしてリラックスした時間を過ごしているエブさん。アフターワークのこの時間は、エブさんにとって1日でも最も楽しみで大切な時間。仕事柄、ロジカルシンキングに偏りがちになり、ストレスが溜まりやすくなるのを防ぐためなのだそう。
その他にも、効率性を求める思考になりすぎないために始めたのが、日本語の学習と哲学の勉強。数年前に日本語教室へ通い出し、今年からはボーアズイチェ大学の哲学科に入学したのだそう。

「法律自体に興味を持って勉強したのですが、実際にそれを使って仕事をするとなると、会社の売り上げ、顧客へのサービス的なことなど、法律だけ扱っていればいいというわけにはいきませんでした。生活のためにお金を稼いで仕事をしている気がして、心から充実している環境とは言えないです。そのために資本主義的な効率ばかりを求める思考にならないように気をつけています」

世界中の若者が感じはじめている、オーバーキャピタリズムに対する疲弊。今後は、芸術、文学、哲学などの分野が、それらの余白を埋め、彼らに新しい生き方の指標を与えるかもしれません。

アメリカ移住の決意

エブさんにこれからもトルコに住み続けたいか聞くと、「実は来月からアメリカへ移住することになった」という返事が。彼の親戚がアメリカに住んでいて、彼らを頼ってに渡米するのだそうです。

「僕はトルコが好きです。経済状況が悪くなければ、トルコに住み続けたいです。でも今は将来この国がどうなっていくのか見えません。予定では4年ほどアメリカに住む予定です。でも将来的にはトルコに帰って生活したいと思っています」


中央部以外、地震プレートに覆われているトルコ

移住を決意した第一の理由は経済状況であるが、もう一つ理由があるという。
「トルコは中央部を除き、全ての地域に地震のプレートがあります。イスタンブールにも巨大地震が来ると言われており、そのリスクを回避するという意味合いもないわけではありません」

海外へ居住を移していく若者たちが将来どのようなトルコをつくるのか。エブさんを通して今後も見守っていきたいと思います。

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