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マデイラ島で働くということ

こんにちは、定住旅行家のERIKOです。2018年にスペインで定住旅行を行ったとき、「Mileurista」(ミレウリスタ)という、月給1000ユーロ、つまり最低賃金で働く人びとを指す言葉をよく耳にしました。2022年現在、スペインの隣のポルトガルに来ていますが、この国の最低賃金は822ユーロ。食料品などはスペインと値段は変わりませんが、光熱費やガソリン代はポルトガルの方が高額です。
高等で専門的な教育を受けた者であっても他のヨーロッパ諸国と比べると国内では給料が低いため、出稼ぎに出る人も多いようです。特にエンジニアはスイスやドイツなどへ、看護師はイギリスへ多く渡っています。またルクセンブルグもポピュラーな出稼ぎ先の一つで、その多さはルクセンブルグ国民の15%をポルトガル人が占めていることに現れています。

現在定住している、ポルトガル南西部に位置するマデイラ島で、人びとはどのような働き方をしていて、どのように生活をやりくりしているのか。滞在先の家族の仕事観にスポットを当ててみます。

Uターンで新たなキャリアを進んだアンドレイアさん


アンドレイアさんはリスボンの専門学校(サービス業)を卒業した後、イタリア、アンゴラ、サントメプリンシペにある5つ星ホテルにてマネージャー業務に従事していました。当時は仕事に夢中で、キャリアを積むことを人生の一番の目標に置いた生き方をしていたそうです。ポルトガルではサービス業は給料も安く、機会に恵まれれば、ポルトガル語が通じる昔の植民地アフリカ諸国などのホテルへ出稼ぎに出る人も多いようです。アンドレイアさんが、アフリカ諸国で働いたいた頃の給料は、月給7000ユーロ以上と、ポルトガルでもらえる5倍近いオファーを得ていたそうです。
9年前、娘のマリアちゃんを授かったことをきっかけに、自分のキャリアに終止符を打ち、実家のあるマデイラ島にUターンしました。現在は、長年働いたホテル業務の経験を生かして、マデイラ大学のホスピタリティ産業学科で教鞭をとり、マデイラ島のサービス業レベルを底上げすることに全力を注いでいます。

マデイラ島現役大学生の仕事観


アンドレイアさんが担当するクラスにお邪魔し、日本の授業とさまざまなテーマについてディスカッションをさせてもらいました。日本のことを紹介する授業は、色々な国で行っているのですが、ポルトガルでは以外にも日本のことがほとんど知られていないことに驚きました。ポルトガルは日本に初めて西洋を持ちんだ国で、歴史的な関係はとても長くあり、両国にとって重要な国です。生徒たちに聞くと、学校で日本のことを習うのは第二次世界大戦以降の歴史で、それ以外はほとんど教えられないということでした。

観光歳入に経済を頼るマデイラでは、彼らが学ぶホスピタリティーは非常に価値の高いものです。島での就職活動は、大学で学位を取った後、インターンシップを経験し、就職をするという流れが一般的だそうです。職業の選択のプライオリティに給料の高さというのは重要視されず、やりがいや好きな仕事をするというのを何よりも大切にしているようでした。

驚いたことにクラスの中で一人暮らしをしている学生は一人もおらず、聞けば、就職後もほとんどの若者は親と同居するのが一般的なのだそうです。それはどのような仕事に就いても給料がほとんど1000ユーロ以下で、一人で暮らしを賄っていくのは非常に難しいからだそうです。大体30歳が賃金が上がる目安となる年だそうで、その頃に親元を離れて暮らす人も多いようです。
ちなみにポルトガルには日本のようにバイト制度がないため、学生時代に社会経験を積む機会はほぼありません。
彼らは、2009年の経済破綻、2020年のコロナ危機と数回に渡り経済不安定な時期を経験した世代でもあり、それによって大きなインパクトを残されたといえると思います。


英語でプレゼンをしたため、生徒たちが遠慮がちになってしまったのは残念でしたが、終わった後に「楽しかった」と感想をもらいホッとしました。

サービス業の常識を変え続けるジュリオさん


ジュリオさんは、シェフ兼オーナーとして、島に3店舗のレストランを経営しています。自身の料理番組のチャンネルも持っており、島では有名なシェフです。ジュリオさんが知られているのは料理の腕前だけではありません。
彼のレストランはとてもイノベイティブなのです。例えば、オープンキッチン。島にはキッチンが見え、お客さんと料理人がコミュニケーションが取れる形態のレストランはジュリオさんがこの店をはじめるまでありませんでしたが、彼の店が発端となり他の店にもこの形態が広がっています。そして料理のシェアー。ポルトガル料理は一人に一皿が基本ですが、彼のレストランでは一皿を複数人とシェアーするという斬新な方法での料理提供を始めました。


肉料理メニューをメインにしたお店「KAMPO


魚料理がメインの「AKUA


今年6月にオープンしたばかりのベジタリアンのお店「KOUVE

仕事は溢れているが、働かない若者たち


ジュリオさんの取り組みはそれだけではありません。ポルトガルでサービス業に携わる人の労働環境を改善したいと、通常サービス業の人たちが週に1日+半日のところを、週に2日+半日休みとして週の労働時間を変更したり、他の会社にはない健康保険の加入、給料も1200ユーロ以上とこれまでのサービス業界では異例の試みを行なっています。その一方、同業者からは賛否両論あり、頭を悩ませてることも多いのだとか。


マデイラの街を歩いているとよくショーウインドウに“求人募集”の張り紙を見かけます。そうです、働き手が足りないのです。仕事はあるのに働きたくない人が多いのです。ジュリオさんの新店舗「KOUVE」は、ずっと従業員が見つからず、数ヶ月遅れでやっとオープンすることができたのだそうです。
また若い人たちは同じ持ち場で2ヶ月以上働くと飽きてやめてしまうことも多いようで、持ち場のローテンションにも気を使っているのだそう。働き手を失わないための工夫もたくさん凝らしているようでした。50歳でリタイアすると決めている彼の今度を私はとても楽しみにしています。

家庭と仕事のライフワークバランス


上記で紹介した通り、お二人は仕事が大好きな働き盛りの40代。特にジュリオさんは新しいことをはじめるのが好きなので頻繁にビジネスアイデアが浮かぶのだそうです。その一方で、仕事ばかりに時間が傾くことで失われるのが家族との時間。アンドレイアさんはこの仕事と家庭とのバランスが崩れないように気を遣っているようでした。
仕事に時間を費いすぎていると感じる時や、何か新規事業をはじめるときなどは、夫婦で時間をかけて話し合いを重ね、家族の時間が減らないように工夫をしながら計画をしていくのだそうです。

日常的に家族のこと、仕事のこと、バケーションのことなどをよく話合う彼らの姿をみて感じたことがありました。アンドレイアさんとジュリオさんは、性格や考えが正反対と言えるほど、違った価値観を持っています。その二人がうまくやっているポイントは、アサーティブなコミュニケーションだと思いました。お互いを尊重しながら話合いができるということは、双方の価値観の違いをうまく埋めていくことができると感じさせてくれた夫婦です。

◎「白の闇」ポルトガル人のノーベル文学賞作家ジョゼ・サラマーゴの作品。現在のコロナパンデミックを予見していたかのような、内容。登場人物名も「」、改行もない、不思議な文学作品です。