”明日のことはわからなくても、墓だけは決めておく” 世界のお墓 〜イタリア編〜
世界の人びとの死生観が垣間見られる、世界のお墓シリーズです。今回は、この夏に滞在したイタリアから。
イタリアといえば、カトリック国として有名です。今回は宗教信仰が濃い南イタリア地方と、中部のウンブリア州に滞在し、家族のお墓参りをさせてもらいました。ことは、残された家族にとって、心が癒えるものなのだと思います。
黒服で過ごす女性たち
南イタリアでは、葬式帰りかと思うほど、全身真っ黒の服を着て過ごしている女性をよく見かけます。
中南米ではほとんど見たことはありませんでしたが、キリスト教の国ではよく見かける服装でもあります。これは、家族や伴侶が亡くなると、喪に服すという意味で身けられるものです。
通常は亡くなった後1年間ほどですが、生涯ずっと黒の衣装を着て過ごす方も大勢います。
また、伴侶がなくなると、その人がつけいた指輪を自分の左の薬指に身につけたりします。
これはFede(フェーデ)と呼ばれています。
南イタリアのお墓
プーリア地方で滞在していた家族の墓地です。この地方では、人が亡くなると遺体を約2日間家に置いてお通夜を行います。
しかし、病院で亡くなった場合は、家には戻れないそうです。
また日本と同様に、死に顔はとても大切で、苦しそうだったり、美しくなかったりすると、縁起が良くないとされています。
まるで小さなアパートのような立派なお墓が多いですが、このような小さなボックスサイズもあります。
最近は火葬も始まっているそうですが、灰は家や他の場所へ持って行くことは法律で禁止されています。
無宗教の人が亡くなった場合は、市役所や役場でセレモニーが行われ、カトリック墓地に埋葬され、教会で告別式などは行われません。
墓地の前ではお花が売られています。お墓には基本的に、どんな花でも供えることができますが、一番クラッシックなのは、日本と同じ菊の花です。
結婚しても、どのお墓に入るかは自分で決められる
日本では結婚すれば苗字が変わり、嫁いだ先の家族の一員になるので、亡くなった場合、嫁いだ先のお墓に入るのか一般的です。
イタリアでは、結婚しても女性は苗字を変えないことが多く、亡くなったら、旦那家族のお墓に入るか、自分の生まれた家族のお墓に入るかを選ぶことができます。
私の知り合いは、「死んだら自分のお母さんの近くにいたい」という理由で、旦那さんとは違うお墓に入ると話していました。
ですので、夫婦で全く別のお墓に入ることも日常茶飯事です。
亡くなった後に行われる”ロサリオ”
ちょうど私がウンブリア州の家に到着した日に、近所の方が亡くなられました。
葬儀や埋葬が行われた後、何日かに渡り、”Rosario”ロサリオと言って、近所の人たちなどが集まって、お祈りを捧げる集会が開かれていました。ロサリオの回数は3、6、9回から選んで行うそうです。
ウンブリア州では、その昔、村人の棺は全て教会の下に埋葬されていたそうですが、ナポレオンが占領するようになって、町の外れに墓地が移されたそうです。
また墓地の近くには、それを囲うようにCipressi(チプレッシ)イトスギが植えられているのが特徴です。
遺体の管理
日本の火葬と違い、遺体をそのまま埋葬するキリスト教は、スペースの確保の問題が出てきます。ウンブリア州では、埋葬した25年後に遺体を一度取り出して、骨を別の場所へ移し、棺を空にします。
もし白骨化していない場合は、土に直接埋葬しなおし、白骨化するのを待って、別のボックスへ移動させるのだそうです。その一切の作業は、葬儀屋さんが執り行います。
お墓参りの日
お墓参りの頻度は家族によってばらつきがあり、私が滞在していたウンブリア州の家族は毎日欠かさずお墓参りをしていました。
イタリアでは、11/1の 聖人の日と11/2 の死者の日にお墓参りをするのが一般的で、その日はチッチコッティというデザートを作って食べるそうです。
イタリア人の死生観
多くのイタリア人は、明日は明日の風が吹くというような感じで、物事を事前に決めたり、計画をしたりするのが苦手です。それはなぜかというと、「明日、次の瞬間何が起こるかわからないから、その時に決断すればいい」という考えを持っているからです。
しかし、死ぬことになると話は別。
「私はここに入る予定なの」と、すでに購入済みのお墓の場所を紹介されることがよくありました。
明日のことは分からなくても、死ぬことだけは確実。なんともイタリア人らしい価値観です。