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グリーンランドで進む温暖化の現状

  • 01.20.2022
  • グリーンランド Greenland
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こんにちは、定住旅行家のERIKOです。2021年10月から11月にかけて国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)が開催されました。温暖化による気候変動に対する急速な対応が各国で強いられるほど地球規模のさまざまレベルで自然変動が起こっています。特に極地と呼ばれる北極圏などでは地球のどこよりも早いスピードで変化が進んでいると言われています。国土のほとんどが北極圏に位置するこのグリーンランドで実際に起きていること、現地で私が実感したこと、またSDGsや環境問題への取り組みについて見ていきたいと思います。

アヴァンナータ自治体が取り組むSDGs


 サステイナビリティーオフィサー マリア・ピーターセンさん

グリーンランド第三の都市、西部のイルリサットはアヴァンナータという自治体に属し、その中心地でもあります。世界遺産のあるイルリサットは、グリーンランドを旅行する人びとが最も多く訪れる場所でもあります。イルリサット市役所内の環境課に務める、サステイナビリティオフィサーのマリア・ピーターセンさんにアヴァンナータ自治体の気候変動の実態や取り組みについて話を伺いました。

まずマリアさんが近年見られる大きな変化の一つに挙げたのは気候です。グリーンランドでは、2021年8月30日に観測史上最高気温の23.4度が北東部にあるナーラリット・イナアット空港で観測されました。年々の気温上昇に伴い、降水量が増え、頻繁に嵐が来るようになっているそうです。もともと低湿な気候に適応した生活様式で暮らしでいたため、湿気が増えることによりさまざまな弊害も生じています。
現在はほとんどの家にエアコンが取り付けられ、湿気が溜まらないように1日2回15分の換気が推奨されています。また2020年2月以降建設される建物に関しては、「メカニックベンティレーション」と呼ばれる自動換気装置の設定が義務付けられます。

小さな村々を襲う津波

気温が上昇すれば、それに伴い氷河の融解速度も早まります。2021年は7月29日以降、グリーンランドの氷床で毎日約80億トンの氷河が溶けたことが明らかになりましたが、これは例年の2倍の量に相当するのだそうです。氷河が融解すると、陸や海洋表面の温度を冷やす役割を果たす白い海氷が減少し、太陽熱の反射パネル効果が減って、海面が上昇する可能性が高まったり、氷河の崩壊による津波の影響で沿岸部の居住者や漁師が事故に巻き込まれる危険があります。


こちらの映像は私が滞在している家の近所で起こった大規模な氷河の崩壊です。これにより、岩場にいた二人の観光客が津波に飲み込まれてしまいましたが、地元の漁師によって助けられました。


こちらはイルリサットから北に200kmにあるヌースアック地域で、2017年に大規模な土砂災害と津波が起こり、付近のヌーガッツィアック村が津波に飲み込まれ、3人が死亡する災害が起こった時の映像です。土砂崩れで津波と聞いてもピンと来づらいかもしれませんが、グリーンランドには土砂で固められた山があり、雨や嵐によって山ごと崩れてしまうことがあります。大量の土砂が海に流れ込むことによって津波が発生したケースがヌーガッツィアックのケースです。


数分前まで立っていた氷が突然融解
家族のジョンさんとアザラシ猟に出た時、氷の上からアザラシを狙っていたことがありました。厚めの氷だったので全く心配していなかったのですが、私たちがボートから離れた途端にミシミシと音を立てて突然融解が始まり、私たちが数分前まで立っていた場所がなくなってしまったことがあり唖然としました。
数年前までは、アザラシの解体作業も氷河の上で行っていたそうですが、現在は解体に適切なサイズの氷河を見つけるのが難しく、また融解速度も早いため、わざわざ陸地まで移動しなければならなくなったそうです。

観光客の増加とゴミ問題

さまざまな課題を抱えるアヴァンナータ自治体ですが、現在取り組んでいる最も重要な取り組みは廃棄物管理です。グリーンランドにはリサイクルシステムがないため、ゴミの50%は焼却され、5%はデンマークに空輸、残りの45%は廃棄されずにそのまま空いた土地に置いてある状態です。
特にイルリサットには、現地住民が出すゴミに加え、観光客から出るゴミもあります。観光客が訪れることによって経済活動は活性化される一方、オーバーツーリズムになってしまうと、観光客がくることによって生じる新たな課題も生んでしまう可能性があります。

グリーンランド天然資源研究所


首都のヌークにある「グリーンランド天然資源研究所」で温暖化について研究を行っているヴィクトリア・クツゥーク・ブッシュマンさんを訪ねました。彼女の出身は、アラスカ州の最北バローという場所で、話されている言語がグリーンランド(西部)ととても似ているそうです。彼女は過去に2年間日本へ留学をした経験も持っていて、初対面にも関わらず親近感を感じると言って歓迎してくれました。

彼女が所属する課は、UNESCOや北極評議会(Arctic Council)、イヌイット周極会議(Inuit Circumpolar Conference)などと協力し、グリーンランドを含む北極圏内の温暖化や気候変動に関する研究、取り組みを実施しています。

氷河の融解による北極航路と課題


ヴィクトリアさんが温暖化の影響に関して指摘したのは氷河の融解に関するものでした。グリーンランド北部、北極圏の氷が年々減少していることで、カナダの北西航路、クイーンエリザベス諸島周辺を漁船やクルーズ船が通航できるようになり、船の往来が頻繁になって来ているようです。グリーンランドには、クルーズシップなどの船に対する規制が設けられていないため、その周辺に暮らす小さなコミュニティや生息する動物、環境にも大きな影響が懸念されています。
ヴィクトリアさんが生まれ育ったアラスカのバローは、氷河が多い地域で、彼女が暮らしていた数年前までは船が通ったところを一度も見たことはなかったそうですが、今では氷が融解し、船が頻繁に行き来していると話していました。
北極海周辺の小さなコミュニティで暮らす人びとは、生活の糧を得るために近海でハンティングやフィッシングを行っているため、船が頻繁に通航するようになることで、ハンティングの妨げになったり、船から排出される汚染物質による水質の悪化などが課題になっています

グリーンランドの環境を学ぶため海外へ行く若者たち


ヴィクトリアさんが感じているもう一つの課題は、物理的な気候変動による影響だけではありませんでした。彼女は研究者の不足についてもこのように言及していました。

グリーンランド国内には大学がヌーク大学しかなく、生物学や環境学などの学科がありません。この国が抱える環境問題について興味あったり、それらのフィールドに携わりたいと思ったら、デンマークやヨーロッパなど海外へ行って学ぶしか方法がないんです。でも留学するには言語や金銭面でハードルが高く、実際にそれを実行できる若者はごく僅かなため、小さな意欲の芽を咲かすことなく終わらせてしまう現状があります。研究者になりたいと意欲を持つ若者はたくさんいるのにとても残念です

グリーンランド国内に生物学や環境学について学べる教育システムがあれば、この場所が学びを深めながらフィールドワークも連動して行うことができる、最適な環境になることは間違いありません。
グリーンランドの教育は、上記以外にも多くの課題を抱えているため、改善されるまでには長い道のりになると思いますが、いつかヴィクトリアさんが言ったようなことが実現できる日が来ることを望みます。

経済発展より環境保全を優先する現政府


グリーンランドは1970年代のオイルショック以降、石油やガス探査が行われ、さまざまな企業が探査・開発ライセンスを獲得してきました。グリーンランド西海岸沖合には約180億バレルの石油埋蔵量が確認されており、東海岸にも大規模な鉱床が眠り、レアアースやウランなどの資源があることが指摘されています。一方で、2021年の4月に首相に就任したイヌイット友愛党のムチ・エゲーデ氏(34)は、2021年7月に石油・ガス探査のための新規ライセンス発行の中止を決定、長年続けてきた化学燃料探査政策も打ち切りました。今後は気候変動や環境への影響を考慮した政策に切り替え、2030年に再生エネルギー100%を目標に掲げています。

多くの国民から絶大的な指示と期待を持たれているムチ首相。今後グリーンランドが国全体で環境問題やそれらの課題にどう取り組んでいくのか、見つめていきたいと思っています。

◎「アラスカ物語」新田次郎 グリーンランドではないですが、フランク安田の生涯から当時の極北で暮らすイヌイットの生活を知ることができる本です。