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デンマーク人高齢者の暮らし

こんにちは、定住旅行家のERIKOです。デンマークの首都コペンハーゲンに定住旅行中です。この国の総人口は560万人、そのうちの15.6%が65歳以上という高齢化社会です。パンデミックの影響で出生率が上がったというニュースもありましたが、現在は50代中ばの年齢層が一番多く、平均寿命は77歳(男性 75歳 女性 80歳)です。

デンマークは福祉制度が充実した国家というイメージが強いですが、実際にお年寄りの方々がどのような生活を送っているか、デンマークの家族ローンボルグ夫婦のご両親を例にみていきたいと思います。

ハイパーアクティブなインゲ・リーゼさん


アンネさんの母、インゲ:リーゼさんは現在81歳。コペンハーゲンの郊外にあるHerstedvester(ハーステッドベスター)という地区で一人暮らしをされています。
インゲさんは定年を迎えるまで、生まれ育ったハーステッドベスターで、看護師や学校教師として勤務されていました。街ですれ違う人の多くは彼女の教え子で、「声をかけられても思い出せない人もたくさんいるけど、適当に楽しく話をするの」と日々軽やかに過ごされています。
インゲさんが結婚したのは、21歳のとき。1960年代の当時は、結婚しなければカップルでアパートを借りられないという法律があったそうで、9歳年上の旦那さんと同居をはじめるタイミングで結婚したのだそうです。旦那さんを約20年前に亡くされてましたが、現在は新しいパートナーとの生活を楽しんでいるようです。

日々忙しく楽しく過ごす

インゲさんと会う約束をするには、数週間前にしなければならないほど、彼女の毎日は予定がぎっしりと詰まっています。週に数回通っているフィットネスのエクササイズや太極拳をはじめ、ゴルフや地域コミュニティの集まり、近所の教会ボランティアなど、とにかく外出しない日はないほど忙しく過ごされています。太極拳に関しては、先生がお休みの日は、彼女が代わりに指導を行うほどの腕前だそう。


 熱烈な名物ファンとしてTVで紹介されるインゲさんとリザベスさん
そんな彼女が最も楽しみにしていることの一つが、孫二人が所属するハンドボールチーム「アジャックス」の試合。私と初めて会った場所もハンドボールの試合会場でした。ご自身もハンドボール人生を送っていた経験から、娘のアンネさんや息子さんもハンドボール選手として活躍していました。息子さんはデンマーク代表としてナショナルチームでもプレーされていた有名選手でもあります。


インゲさんがボランティアをするハーステッドベスターの街にある教会。この教会は、彼女自身、そして娘のアンネさんとクリスティアンさんが結婚式を挙げた場所でもあります。デンマークでは、福音ルーテル派が国教に定められていますが、1536年にクリスティアン3世が導入するまではカトリックが信仰されていました。

老後は何があっても子どもと同居しない


デンマークでは18歳頃になると親元を離れて生活をする人が大半です。グリーンランドでも同様に18歳になると自立をするという価値観があります。政府は18歳になっても親元で生活している人をホームレスという位置付けで扱っているのには驚きました。
デンマークでは障がいを持った人や病い抱えている人でさえ18歳になると家を出て、国が面倒を見るというのが常識だそうです。
子どもが自立をすると、夫婦はそれを第二の人生と捉えて、新しい住居を構えたり生活スタイルを大きく変える人もいます。また親が病気をしたり、介護が必要になったとしても、再び同居することはありません。
インゲさんも数年前に皮膚癌を患い、現在は5、6年毎にメディカルチェックを受けているようですが、「例え私が病気になって動けなくなったとしても、今更子どもとは絶対に一緒に暮らしたくない」と話していました。
日本人やロシア人、イラン人、中南米の人がこれを聞くと、育ててもらった親の面倒をみないなんて冷酷だという声が聞こえてきそうですが、デンマークには一度自立すると個人は家族や親の責任ではなく、国が責任を持つという考えがあるように思えます。

老人ホームではない高齢者用の住宅や、24時間の在宅ケアーなどの社会サービスが充実しており、高齢者介護や障害者ケアが行われ、それにかかる費用や医療費も無料です。デンマークでは高齢者を対象とした事業は行政の責務で、高齢者を相手にしたビジネスは法律上認められていません。充実した老後の福祉制度はそういった価値観から生まれているのだと思います。

時にこのような福祉制度を日本と比較してみたりすることがあるようです。個人的な意見では、デンマークのこのような社会制度は人口が500万人という少なさや、宗教観や歴史文化の上で成り立っているもので、人口規模や社会精神性が異なる日本のシステムと比較すること、モデルケースとすること自体が無謀なことのように思えます。(その点に関してカナダの政治学者 ウィル・キムリッカ氏が「多文化主義のゆくえ」でシステムや文化を編成することがどういうことがを詳しく説明しています)

社会の責任と趣味を暮らしに


こちらはクリスティアンさんのお母さん、リザベスさんです。彼女はインゲさんの近所に暮らしており、お二人ともとても仲良しです。リザベスさんもインゲさんに引けを取らないアクティブな方。今年80歳を迎えられました。

              お墓に毎日訪れることで心の傷を癒しているというリザベスさん
毎朝のルーティーンは数キロ離れた教会墓地まで、数年前に亡くなられた旦那様のお墓参りに愛犬と行くことです。私も旦那様のお墓参りをさせて頂きました。

 誰でも埋葬が可能な教会墓地のフリースペース
デンマークでは埋葬方法を火葬か土葬か選ぶことができるようです。またお墓の種類も様々で、場所や広さによりかかる料金が異なります。墓地の一角にはフリースペースたる場所が設けてあり、費用がかからずそのスペース内であれば、好きな場所に無料で埋葬することができるようになっています。生前に自分の希望の場所を伝え、埋葬後には花を供えるという方法です。


 リザベスの愛犬
リザベスさんは朝の散歩ルーティーンが終わると、ほぼ毎日ジムへ行ってトレーニングをしているのだそうです。
ジム終わりには、仲間と一緒に昼食をとったり、カフェに行ったりするのも楽しみの一つだと話していました。リザベスさんもゴルフが趣味の一つだそうです。

デンマークに「高齢者問題全国連盟」というNPO団体があります。会員数は50万人以上と国民のほとんどのお年寄りたちが入会しています。この団体は、様々なイベントや集会、旅行などのアクティビティを企画し運営している他、手助けが必要な人を相互援助できるシステムがあります。また入会すると国内の様々なカフェ、レストラン、施設などで利用できるディスカウント特権などもついています。リザベスさんはこの団体の役員を務めており、お年寄りたちに対して様々な提案や企画運営を取りまとめています。この団体に所属することで、政治家との交流の場もあり、意見交換を交わすこともあるのだそうです。

豊かな老後を現役時代に準備する


インゲさんやリザベスさん以外にも、お年寄りの方々と接する機会がありましたが、皆さんとても活発で毎日を楽しんでいる印象を受けました。私の個人的な視点ですが、以前の記事でも書いたようにデンマーク人は休む天才、余暇の過ごし方をよく知っていてる人たちであると思います。若い頃からライフワークバランスがしっかりと取れているため、退職をして年金生活に入った後も、退屈することなく充実した日々を送る術を心得ているのだと感じました。

年をとってから新しい趣味を探すのも良いことですが、体力的な面や人間関係の構築などを考えると、若いうちから自分の余暇を充実させることが老後の豊な生活に繋がるような気がします。

 

◎デンマークの福祉に関して詳しく知りたい方はこちらを。