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多様な教育選択、ママ友コミュニティ、子どものアルコール問題

こんにちは、定住旅行家のERIKOです。デンマークに滞在中、当地ではどのような教育が行われているかを知るために、現地の小学校や教育機関などをいくつか訪問させてもらいました。そこで知ったのはデンマークの教育システムは非常に多様という面で日本と大きな違いがあったことです。今回は日本にはない成人教育学校と呼ばれる「ホイスコーレ」という学校や、滞在先のご近所さん14歳のエレノーラちゃんから見えてくるデンマークの子どもたちの学生生活や暮らしについて紹介したい思います。

さまざまな道が自分で自由に選択できる教育システム

まず、デンマークの教育システムを見てみましょう。6歳でフォルケスコーレ(Folkeskole)と呼ばれる小学校のような義務教育を9年間受講します。最後の10年生は選択制でエフタスコーレ(Efterskole)と呼ばれ、教師や生徒が、補修科目などが必要と感じれば授業を追加で受けられるようになっています。また10年生のときに、親元を離れて勉学に励むボーディンディングスクール(全寮制の寄宿学校)へ通う生徒も多いようです。義務教育を終えた後、子どもたちには社会へ出る前にさまざまな教育の選択枠が用意されています。

その選択の一つがジムネシアム(Gymnasium)と呼ばれる高校への進学、高校にも6つのタイプがあり、アカデミックなものや専門的な教科を学ぶものなどがあります。2つ目の道は専門学校(Teknisk  Højskole)への道です。エンジニア、大工、調理師など特殊な技能を身につけるための学校です。

ジムネシアムを出た後は、そのまま大学へ進学するか、自分のやりたい方向性を探るため、ホイスコーレ( Højskole)と呼ばれる半年間の専門学校へ行く人、1年間の休みをとってインターンを経験したり、海外へ旅に出る人もいます。大学生になるとSUと呼ばれる政府のファウンドから毎月5・6000DKK(約87,000-100,000円)が支給されます。

大学進学を選択した人たちの多くは、入学前に1年間休みを取り、お金を貯めるためにフルタイムで仕事をしたり、海外へ行って世界の様子を知ると言う経験を積んでいるようでした。

将来を見極めるための時間を過ごすホイスコーレ学校


デンマークには成績等に関わらず誰でも学ぶことができるホイスコーレ(Højskole)と言う学校が存在します。半年間のボーディングスクールで18歳以上であれば誰でも入学できます。デンマーク国内に70校あり、約7タイプに分類されています。授業はデンマーク語のみで、学校によって取扱い科目が異なります。

私が見学させてもらったコペンハーゲン市内にあるSuhrs Højskoleは、食育、サステイナブル環境、スポーツ、文学、芸術、パティシエコースなどがありました。定員は50名だそうで、パンデミックの影響で、本来なら海外へ渡航を希望していた人たちがホイスコーレに入学して来ているのだそうで、通年より生徒の数が増えていると話していました。


ちょうど私が訪問させてもらった時は、パティシエコースの授業が行われていました。生徒の中にはノルウェー人などの外国人の生徒もいました。


                                    広い食堂
朝食、昼食、夕食の準備や片付けなどは生徒間で当番制になっているそうで、同じ宿舎に暮らす生徒たちとの共同生活を体験し、他者との共存を学ぶこともホイスコーレでは大切にされているようでした。
ちなみにデンマークの一般的なシェアーハウスでも、一人一人が経費を出し合い、食事、掃除などを当番制にしている人がほとんどで驚きました。それぞれが自由に行動しながらも、基本的なことは平等になるように分割するという、まさにデンマーク社会が体現されているようでした。

14歳エレノールちゃんの学生生活


コペンハーゲンのローンボルグ家で滞在中、同じマンションの上階に暮らすチルダース家と親しくさせてもらいました。アメリカ人のエミリーさんとデンマーク人のフレデリック夫婦、エレノールちゃんとエリーちゃん娘二人の4人家族です。長女のエレノールちゃんが学生生活や暮らしについて色々と教えてくれました。
現在は対面式の授業が再開されていますが、デンマークは2021年に厳しいロックダウンをしたため、4−5ヶ月はオンライン授業で、親子ともに大変な時期を過ごしたそうです。

勉強が大好き


フォルケスコーレの8年生であるエレノールちゃんは現在14歳、日本では中学生に当たる年齢です。デンマークの学校は、夏休みが6−8月頭まで、3月にイースター休暇、10月に秋休みが1週間設けられています。秋休みはジャガイモの収穫する時期と重なるため、昔の習慣の名残ではないかと言われています。

彼女が通うのは近所にあるキャプテンジョンセン学校。エレノールちゃんは自転車で通学しています。エミリーさんは娘たちを公立の学校へ通わせることも考えたそうですが、公立校の生徒数は約1,000人、プライベートスクールは200人前後であり、教育方針もそれぞれ異なるため、プライベートスクールを選んだそうです。デンマークの公立学校は無料ですが、プライベートスクールは教育費を払うシステムになっています。しかし、他のヨーロッパ諸国と比べると費用は非常に安いようです。

勉強が大好きだというエレノールちゃんは、毎日に宿題をするのが楽しみなのだそう。本を読むのに没頭しているという彼女のお部屋にはたくさんの英語の本が並べられていました。読んだ本にはレビューをノートに記録しているのだそうで、将来物書きになるのではないかと勝手に想像していました。好きな音楽はテイラースイフトやカントリー・フォークなどだそうで、デンマーク語の曲より英語の曲を好んで聞いているのだそうです。趣味は10歳の頃からやっている体操で、現在は子どもたち指導もしているのだそうです。現在は手話に興味があって、将来習ってみたいのだそうです。

勉強が好きな彼女は学校では先生から「あまり勉強を頑張りすぎないように」と注意を受けているのだそう。デンマークでは人並みであること、ほどほどが良いとされているため、人よりも秀でないようにする思考がここにも反映されているようです。


エレノールちゃんがいちばん好きな本はこちらの「The fault in our stars」(きっと星のせいじゃない)。映画され世界的にヒットしたジョン・グリーンの小説です。

子どもたちをめぐる社会問題


デンマークでも子どもたちのSNSに関する問題があります。彼らの間では、Tiktok、スナップチャット、Instaが流行しており、長時間スマホの非現実世界に接しているため、リアルな世界での友人関係や親子関係のコミュニケーションに支障が出たり、孤立する子どもが増えているのだそうです。エミリーさんはそんな孤立する子どもたちを助けるためのコミュニティを作ろうと”GirlCollective“を立ち上げ、コペンハーゲン市と協力して問題解決に取り組んでいます。

もう一つの大きな問題となっているのは、子どもたちのアルコール摂取です。デンマークでは15歳からアルコールを購入することができ(ハードリカーは18歳から)、16歳から飲酒が可能です。エレノールちゃんのクラスには22名の生徒が在籍していますが、アルコールを飲んだことのない生徒はたったの4人で、お酒を飲まない人は仲間外れの対象とされてしまうこともあるのだそうです。
今年の8月の保護者会では、親同士で「アルコール提供禁止協定」たるものがが結ばれたそうで、家で子どもにアルコールを提供しないことと、飲酒をしている生徒たちを見かけたら親同士で通報しあうことが決められたそうです。また北欧で浸透しているスヌースと呼ばれるチューイング式のタバコを摂取している生徒も多くいるようでした。

デンマークの学校には日本のような部活動などがなく、授業が終わった後の時間で、スポーツやアクティビティをしようと思うと、自発的に探して参加を試みなければなりません。就学後の暇な時間がありすぎること、手軽にアルコールが手に入ることなどの要因が、子どもたちのアルコール摂取を増進させているような気もします。

ママ友・パパ友コミュニティー

ママ友グループが存在するのは日本だけではありません。前回の記事でも紹介しましたが、人と集まるのが大好きなデンマーク人は、様々な形で集会する機会を設けます。その一つがママ友、パパ友コミュニティです。PTAや保護者会もさることながら、仲のいいママ・パパ同士がグループを作り、パーティー、お茶会、クリスマス会などを催しているようです。時にはグループで旅行へいくこともあるのだとか。アメリカ育ちのエミリーさんは、アメリカにはないこの不思議な習慣に当初は困惑し、なかなか馴染めなかったのだそう。今でも時折招待を受けて参加することもあるそうですが、参加を断ると何となく輪に入れなくなってしまうような感じを受けるそうです。

デンマークが抱える教育課題


キャプテンジョンセン学校で生徒たちと交流をさせて頂いた際、校長のキム・クリスチャン・ラーセン先生とデンマークの教育についてお話をさせてもらいました。中でも印象に残ったのは、デンマークでは小学校3年生までは、勉強ではなくソーシャライズすることに重きを置いていると言うこと、またテストなどで解答を求める時には答えを一つにせず、多様な考えを尊重する教育がベースにあるということでした。

反対に特に近年課題となっていることについてこう話していました。

「デンマークの教師のほとんどは女性です。そのため、どうしても授業の方向性が大人しく座って読み書きを行う時間が増えてしまいます。しかし男子生徒たちは長時間座って授業を受けることに苦痛を感じることが多いですし、男の先生とできるような喧嘩ごっこや戯れて遊ぶことができません。体育の授業も週に1時間程度しかなく、運動場も学校にないため、エネルギーを発散させることができず、ストレスを溜めてしまう生徒も多くいるのが課題です」

デンマークの教育が女子にフィットするようなシステムに自然となっていることは、約70%が女子であるというこの国の大学進学率にも現れているような気がします。

また近年では、「カーリングペアレンツ」curling parentsと呼ばれる、子どもをカーリングするように過保護に育てるという意味の親が増えているようです。それも少子化が進む社会が生み出している新しい側面かもしれません。


 2年生のクラスで日本の授業としゃんしゃん踊り(鳥取の踊り)を披露させて頂きました!

◎コペンハーゲンの街の中心にあるヒッピーコミュニティについて書かれた本です。