世界遺産の中の伝統的な暮らし
こんにちは、定住旅行家のERIKOです。トルコのカッパドキア、ウチヒサル村に暮らすトゥルケ家に滞在しています。カッパドキアは主に、ギョレメ、ユルギュップ、ウチヒサル、オルタヒサルの4つのエリアに分かれていますが、この地域がユネスコの世界遺産に登録されて以来、外部資本のホテルが次々と建設されました。観光地化が進む中でも、昔からこの地域に暮らす人びとは伝統的な暮らしを送っています。
「パルム・ドール賞」を受賞したトルコ映画の舞台となった家
トゥルケ家はウチヒサル村に3つの住居を所有しています。
一軒目は、家長のメフメットさんが生まれた地下洞窟住居。家族が「ガーデン」と呼ぶ家。洞窟掘師(スゴイ職業!)だったメフメットさんのおじいちゃんが自ら掘った住居で、メフメットさんもここで生まれたのだそう。1世代前は、多くの人が住居を掘るスキルを持っていたのだそうです。
メフメットさんの祖父 ハッサン
庭の手入れも行き届いていて、この家の菜園で取れたオーガニックの野菜や果物などを日々の食糧にしています。
実はトゥルケさんのお家、カンヌ国際映画祭で「パルム・ドール賞」を受賞したトルコ映画、「雪の轍」のロケ地となった家なのです。
たまたまこの村を訪れていた監督のヌリさんが、メフメッドさんの人生ストーリーや土地の文化に感銘受け、メフメットさんが生まれ育った家を舞台に映画の発想を得たそうです。この作品、パルム・ドール賞史上最長映画だそうですが、是非機会があれば観てみてください。この村の昔の伝統的な暮らしや人間関係を知ることができる貴重な映画でもあります。
洞窟住居は、30度を超える日でも室内は寒いくらいとてもひんやりとしています。天井の高さもそこそこあるので閉鎖感も圧迫感も感じません。ただ、たまにベッドに横になるとザラザラとした感触が・・・そうです、洞窟の細かい土や砂が落ちてくることがあるんです。
2軒目のお家はこちら。ホテルみたいと思われた方もいらっしゃると思いますが、その通りです!彼らは一家で洞窟を利用した「La meson du Sisik」というホテルも経営しています。全部で15室あり、それぞれデザインが違う部屋ばかり。
私は滞在中、主にこのホテルの部屋で寝泊まりさせてもらっていました。
ハマム(トルコ式温泉)やサウナもあります。トルコハマムは元々女性たちが集って、歌を歌ったり、食事をしたりする社交場だったそうです。温められた大理石の上に裸で寝そべり、垢擦りや体を洗ってもらうのがトルコ式ハマム。
お湯に浸からずとも身体は芯から温まりリラックスできます。何より広々とした素敵な空間にいるだけでとっても癒されます。
3軒目のお家は、洞窟タイプではない住居。いわゆる普通の家です。二世帯住宅で、一階はおばあちゃんのフスニアさんが暮らし、2階にメフメットさん家族が生活しています。3人姉妹の兄弟喧嘩が絶えないとのことで、現在1階に新しい部屋を建設中。
最初の玄関の扉を開けると小部屋のようになっています。いわゆる風除室ですが、ここで靴を脱ぎ、家の中に入ります。カッパドキアは雪深い地域で、冬には気温がマイナス25度くらいまで下がるそう。寒い冬にの気候が、家のつくりに影響しているのかもしれません。
一階で一人暮らしをするメフメッドさんのお母さん、フスニアさん
そして入り口には「ナザール・ボンジュ」と呼ばれる、トルコの魔除けが吊るされています。真ん中には目玉が描かれており、邪視から災いを跳ね除けると言われているものです。私が以前滞在したロシアでも、邪視を信じる人が多く色々なおまじないがありました。
庭には調理やサラダに使用する、ネギ、レタス、トマトなどが栽培されています。広い中庭では鶏を飼育し、卵を収穫しています。菜園や養鶏を行うことは、家族で共通の仕事を持つことでもあり、連帯感を強めたり、食事の際などに、この食材が食卓に上がるまでのエピソードを共有するなど食事そのものを豊かにすることでもあると感じました。
夕食は毎日家族がこの家に集って食べています。家族は日々の仕事や作業に合わせて、それぞれの家に宿泊しながら暮らしています。
キリムという手紙
カッパドキア周辺のお家をいくつか訪問しましたが、どの家もキリムと呼ばれる織物や絨毯がひいてあるのが特徴でした。キリムはアナトリア地方の遊牧民によって受け継がれてきた伝統的な平織物で、家で最も大事にされているものの一つです。
かつては結婚して嫁に嫁ぐときには母親がつくったキリムを娘にプレゼントしていたそうで、キリムを編む技術はみんなが持っていたそうです。これはおばあちゃんのフスニアさんが編んだキリム。メフマッドさんは「キリムは手紙だ」と説明してくれましたが、ただの織物以上のメッセージと愛情が込められたものなのだと感じました。
カッパドキア人の伝統的な暮らし
現在、カッパドキアという地域は観光地化が著しく進んでいます。ここを訪れる人たちの興味は、この景勝を見るための気球やそれに付随するアクティビティがほとんどです。
メフメッドさんとウチヒサル村の景色を眺めていた時のこと。私は初めて目にする奇観的風景に圧倒されていたのですが、「これはこの村本来の景色では全くない」と一言。
「子どもの頃は、みんなが家畜を飼って、菜園をして、キリルを編み、子どもたちが走り回っていた。今この景色は表面的に美しくみえるけど、私にはお金の景色に見える。ここに暮らしはない」と話していました。
メフマッドさん一家は、昔からこの土地で続く伝統的な暮らしを心がけています。畑を持ち、家畜を育てなるべく自分たちの手をかけて食料を自給し極力買い物はしない。
夏場の畑の管理は体力勝負ですし、家畜を持てば気軽に旅行などすることもできません。しかし、それらが食卓に並ぶときの安心感と豊かさは苦労に変え難い喜びがあるのだと思います。