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戦争で国民がはじめたこと

こんにちは、定住旅行家のERIKOです。ウクライナ中部のクロピヴニツキーに滞在中です。ウクライナへ来る前、今回の戦争が始まったのはロシア侵攻が始まった、20222月という認識を持っていました。一方現地では、2014年のドンバス戦争から始まったというのが人びとの共通認識でした。そしてこの時から、国民がはじめたことがあります。それがボランティアです。個人、企業が大小問わず、国民全員が何らかの形で兵士や国をサポートしています。

日々拡大するする墓地


クロピヴニツキーに到着した日、滞在先の家族のゴーチャさんがまず案内してくれたのは墓地でした。小さな村の集合墓地には、青と黄色の国旗が無数に旗めいていました。墓にはそれぞれ、故人の遺影、名前と共に没年月日が書かれており、そのほとんどが2、30代の若い青年たちでした。同行していたゴーチャさんは「みんな知っている」と、目を赤くして思い出した彼らとの思い出を話してくれました。


忘れられないのが、墓の前にうなだれて泣いている女性に出会ったこと。私が近づくと、「何か必要ですか?」と優しく声をかけてくれたのですが、「これが息子」ですと言った途端、堰を切ったように泣き出しました。私は思わず彼女を抱きしめました。
初めはウクライナ語で話していた彼女は、私が理解できないとわかるとロシア語に切り替えて話してくれました。「なぜ、なぜ。私は理解できない」という言葉を繰り返しながら、悲しみでやり場のない身体を左右に揺すっていました。彼女と別れるとき、「ありがとう」と何度もお礼を言われましたが、どれほどの想像力をつかっても、彼女の悲しみを感じることはできないという無力感に襲われました。

おばちゃんパワーで国を支えるボランティア団体


クロピヴニツキーには、ウクライナでも有名なボランティア団体があります。「ラゾム・ミィ・スィラ」(みんなで力を合わせる)は、代表のタチアナさんが、近所のおばちゃんたちと結成した組織です。メンバーは約10名。2014年のドンバス戦争が勃発したときから今日まで毎日休みなく活動しています。

衣類から食料まで


彼女たちが行うボランティアは主に兵士への物資提供。現地で着用する衣類、軍用車や戦車、ブロック・ポスト(中継所)、カモフラージュに使うギリースーツの作成、暖房器具や非常食まで、幅広く、兵士が戦場で必要なものを集めたり、手作りしています。


手作りの救急セット


なるべく家庭の味を食べて欲しいと手料理が入った非常食


タチアナさんを一言で表すと「パワフル」。ソ連時代を生きた女性に共通する責任感の強さと逞しさを全面的に感じる女性です。一般企業で働いていた彼女は戦争を機に仕事を辞め、ボランティア活動だけに精を出すことに決めました。

「戦場には軍からの支給だけでは足りないものがたくさんあります。兵士たちが最善を尽くせるように私たちがサポートする義務があります」と話すタチアナさん。

私に施設の中を隈無く案内してくれている最中も、指示を出したり、電話を受けたりと大忙しです。基本的にはこの場所で毎日働いているようですが、前線へ物資を直接届けにいくこともあるとのことでした。

私もギリースーツの作成を少し体験させてもらったり、非常食をご馳走になったりしながら、ボランティアをする人たちの様子を見させてもらいました。滞在した数時間の間にも、何人かの兵士たちが物資をもらいに来ました。

前線へ向かうある青年


物資をもらいに来た彼は、数日後に前線へ就くという20代後半の男性です。今回初めて徴兵され、戦地へ行くのははじめてだと言うことでした。前線がどういう場所で、具体的に何が必要かなどのアドバイスをタチアナさんから受けながら、衣類や食糧など段ボール3つ分ほどの物資をもらっていました。兵士と話す彼女の様子を見て、ただ物資を提供しているだけでなく、相談を受けたりして、まるで総合案内所のような役割を果たしているようでした。

今回の徴兵について家族はどのように思っているかと質問すると、「戦争の話は家ではしないのでわかりません」と言っていました。


こちらは子どもたちが描いた絵。これは何に使われるかお分かりでしょうか?

前線には兵士たちがかろうじて寝泊まりができる塀に囲まれた場所があるのだそうですが、そこが攻撃されたりして壁に穴が空いたとき、それを隠す布などの代わりに使うものだそうです。銃撃された穴を子どもたちが描いた絵で覆う、それを見るだけずいぶん気持ちが楽になると話していました。

数時間の間に何人もの兵士たちがタチアナさんのところを訪れ、物資を持ち帰ってきました。タチアナさんや一緒に働くメンバーのおばちゃんたちは、訪れる兵士たちを労い、喝を入れながら、元気よく彼らの車を送り出していきます。表情には出ませんが、同じ年代の娘や息子を持つ彼女たちの心情は、一体どんなものなのか。それは戦争を体験する者にしかわかりません。

 

◎「終わらない戦争」