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マデイラ島にUターンした家族

  • 07.13.2022
  • ポルトガル Portugal
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こんにちは、定住旅行家のERIKOです。2022年5月より、南欧ポルトガルにて定住旅行をしています。最初の定住地は、ポルトガルの首都リスボンから南西におよそ1,000kmにあるマデイラという島です。

ヨーロッパ人にとってのハワイ「マデイラ島」

“マデイラ”とはポルトガル語で「木」という意味です。この島は1418年、隣島のポルトサントを発見した探検家のジョアオ・ゴンカルバスとトゥリスタオ・ヴァスによって発見され、1425年にドン・エンリケの指揮により、本格的に入植がはじまりました。
入植当時、島に到着したにも関わらず、上陸できないほど木々がびっしりと生い茂っていたことからこのマデイラという名がつけられたそうです。
ポルトガル人が本土以外で初めて入植した土地で、ここで実施された方法が、後の海外領土にも採用されることになります。

マデイラ島は大西洋を航行する船の物資供給を行う場所となり、その後、ジェノバ商人の出資により砂糖栽培が始まりました。16世紀にはワインの輸出港として栄え、一万人が暮らしていました。ジェノバ出身のコロンブスもこの砂糖交易のためマデイラに滞在し、1479年にポルトサント島に暮らすフェリッパ・モニスという女性と結婚したことは現地ではよく知られた話です。

 

1800mの山を頂点にした火山島

5月26日の早朝、東京を出発して約35時間後、クリスチアーノ・ロナウド・マデイラ国際空港(サッカー選手クリスチアーノ・ロナウドの出身地です)に到着しました。マデイラ島は、世界各地40都市を結ぶ、LLCを含めた多くの航空会社の飛行機が飛んでいます。
個人的に一番のオススメはTAPというポルトガルの航空会社です。海沿いにある建設された空港は、強風と濃霧で離発着が難しく、フライトがキャンセルになったり、着陸寸前で引き返すことも多いのですが、そんな場合でもTAPであれば振替えの保証をしてくれるので安心です。

マデイラ島はヨーロッパではよく知られたリゾート地。ホテルの80%以上が4つ星以上です。カナリア諸島などと同様にヨーロッパ人(特にドイツ、イギリス、フランス)が長期でバケーションを過ごす人気の土地でもあります。私がマデイラに到着した5月は毎年フラワーフェスティバルが行われています。今回は日程が合わず見ることができませんでしたが、年間を通してたくさんのイベントやフェスティバルが開催されています。

マデイラ島へきてまず驚いたのは、平地がほとんど存在しない土地だということです。島にはPico Ruivoという1,862m最高峰や、ピコ・アリエイロ山1,818mなどがあり、山からの裾野の広がっていく傾斜地に張り付くようにして、住居が建てられています。
奄美大島と同じくらいの面積に約25万人の人びとが暮らしており、人口密度は全国平均の3倍以上に達します。

Uターンしてマデイラ島に暮らす


マデイラ島で滞在させて頂いたのは、アンドレイアさん(真ん中)、ジュリオさん夫婦(左奥)、そして彼らの一人娘のマリアちゃん(手前左)の3人家族です。
マデイラ島出身のアンドレイラさんはマデイラ大学でホスピタリティ産業科目の教鞭をとっており、旦那さんのジュリオさんはリスボン出身、自治首都のフンシャルでシェフ兼、3軒のレストランを経営しています。マリアちゃんは現在9歳。インターナショナルスクールに通っています。

仕事のキャリアより人生を選んだアンドレイアさん

二人が出会ったのは18歳の学生時代の首都リスボン。当時は真面目なお付き合いという感じではなかったそうですが、20代後半になって再び真剣に交際がスタートしたのだそう。


アンドレイラさんはリッツカールトン、ブルガリ、フォーシーズンズをはじめとする一流ホテルのジェネラルマネージャーとして、世界中で勤務をしていました。当時は自分の仕事に夢中で、海外で働くジュリオさんともほとんどの交際期間は遠距離恋愛、自分のキャリアが第一優先で家庭を持つことなど考えてもいなかったようです。
しかし、不規則な生活によるストレスやお互いの時間のすれ違いなどをきっかけに、自分の人生を見直すようになりました。そのタイミングで、マリアちゃんを授かったことが分かり、自分のキャリアにピリオドを打つ決断をします。
ジュリオさんから、「世界中で君が住みたい場所を選んでいい」と言われ、彼女は出身地であるマデイラ島に戻ることを決意しました。

両親や兄弟と同じ敷地内で生活するようになり、初めのころはプライバシーもない、人との距離が近い暮らしになれなかったそうですが、今では賑やかな生活がとても心地よく感じていると話してくれました。過去の仕事への帰心が湧き上がる時もあるそうですが、現在のゆったりとした暮らしを送る豊さを噛み締めているようです。

リズボン出身のシェフ ジュリオさん


ジュリオさんはリスボンに生まれ育ちました。実家は肉屋を営んでおり、子どもの頃から家業を手伝っていたそうです。幼い頃から食材に触れる機会が多かった生活環境は、調理師の専門学校へと彼を導きます。その時に同じ学校に通っていたアンドレイアさんと出会ったそうです。卒業後は世界各地の名だたるホテルやレストランでシェフとしての経験を積みました。
マデイラ島でアンドレイアさんとの暮らしが始まった数年後に、自身のレストランをオープン。地元の食材を使用した、地元の人に愛されるレストランは、連日予約でいっぱいです。彼はレストランの他にも、不動産などさまざまなビジネスをしています。


二人は20年以上のパートナーですが、結婚はしていません。ポルトガルでの結婚とは、戸籍登録保存所で婚姻を申請するのと、教会で行う2つの概念があります。二人は一度結婚しようと決めたそうですが、式の日程が決まったとき、お互いの両親が「その日は猟の解禁日だから行けない」と出席を断ったそうで、これにへそを曲げてしまったアンドレイアさんは、結婚はしないと決めたそうです。
定期的にジュリオさんがプロポーズをしてくるのだそうですが、いまさら面倒だと断り続けているのだそうです。笑
ポルトガルでは最近、教会で式を挙げるカップルはめっきり減り、婚姻申請もせず、カップルとして家族を形成するというパターンが増加していて、むしろそちらの方が一般的になりつつあります。

マデイラに住むきかっけとなったマリアちゃん


マリアちゃん9歳。一人っ子で大人たちと接する機会が多いせいか、大人のような雰囲気を持った子どもです。ポルトガル語、英語が流暢話せる上、現在中国語(普通話)を習得中。私がいくつか漢字を書くと意味を理解していたので驚きました!
アンドレイアさんとジュリオさんがこの島で暮らしているのも、9年前にマリアちゃんを授かったことがきっかけでした。

 

親や兄弟の関係


同じ敷地内の離れには、アンドレイアさんお母さんのギーダさんが暮らしています。週末に一緒に食事をしたり、適度な距離感を持ってお互いの暮らしを営んでいます。
アンドレイアさんとジュリオさんは共働きのため、マリアちゃんの学校が終わると、毎日ギーダさんが彼女の面倒をみています。マリアちゃんはおばあちゃんとの時間も楽しんでいるようですが、両親との時間が取れない日々が続くと、寂しくて涙を流す姿をしばしば見かけました。私自身も両親が共働きで家にいなかったので、マリアちゃんの気持ちに共感しつつ、その時の寂しい気持ちを思い出しました。


アンドレイアさんの弟ルビオさんはセーラー(航海士)。海のある各国に暮らしながら、クルージングの仕事に従事しています。つい3ヶ月前までバージニア諸島に4年間暮らしていましたが、一仕事を終えた現在はマデイラ島に滞在しています。


アンドレイアさんやルビオさんの父親は有名な航海士だったそうで、兄弟4人全員が父親からセーリングのスキルを教え込まれたそうです。これはポルトガル人全般にも言えることですが、何か問題が起こった時は、すぐに解決方法を提示したり、あるものを工夫したりして、問題に対して決して感情的になる暇もない速さで問題を解決します。ポルトガル語には、「Desenrrascar」デセンハシュカル=〜を困難から抜け出させる、自分なりの解決方法を見つけるという動詞もあるほどです。マデイラ人は特に、船という狭く限られたリソースの中でさまざまな作業を行う能力が身につけているせいかもしれません。

30歳になっても親と暮らすポルトガル人

北ヨーロッパ人が聞いたら信じられないかもしれない話ですが、ポルトガルでは大体30歳くらいになるまで両親と同居するのが一般的です。(それ以上の年齢の人たちも多くいます)
その理由の一つは、自立が困難な経済的社会環境が上げられます。ポルトガル国内の賃貸住宅の家賃は、ポルトガル人の平均給料と同じと言われるほど高額のため、社会人になったばかりの若者が一人暮らしをするのは不可能に近いです。
家を出る年齢が30歳前後というのも、一般の会社員の給料が上がるのがこの年齢であることが大きく影響していると思います。
経済的な理由以外では、ポルトガル人にとって家族は彼らの暮らしや人生の中心にあるもので、お互い助け合いながら生きていくという考えが前提にあるということもあるようです。若い人たちの間ではそのような価値観が薄れてきてはいますが、家族を1単位とする価値観はまだ根付いています。

マデイラ人との交流や、家族との暮らしを体験して、日々の生活の中で、家族との時間を持ったりそれを大切にしてはいるものの、生活資金をどう調達するかという経済的活動に精神的な重きを置いている人も多いように感じられました。より良い暮らしのために必要なお金を稼ぐことと、家族や人、人生の豊かさと向き合う時間のバランスはどの資本主義社会においても難しいものだと改めて感じました。

 

ポルトガル短篇小説傑作選 (現代ポルトガル文学選集)
ポルトガルを理解するのに欠かせないアフリカ植民地での出来事に触れることができた作品です。