ポルトガル中部地方 人口50人の村に暮らす家族
こんにちは、定住旅行家のERIKOです。ポルトガル南西部のマデイラ島での滞在を終えて、ポルトガル中部・ベイラバイシャセントロBeira Baixa Centro に位置するカステロ・ノーボCatelo Novoという村にやってきました。この村は標高703メートル地点にある、人口50人という小さな村です。フンダオという自治体に属している村ですが、13世紀初めごろ間ではフンダオの自治体の中でも最も古い歴史を持っています。
12の歴史村地区の一つ「カステロ・ノーボ村」
ポルトガル中部では1999年より、「ポルトガル12の歴史村」と呼ばれるプロジェクトが発足されました。目的は中部に点在する歴史的な村々の景観保存、観光客の誘致、次世代への文化継承です。12の村の中には、巨石のヴァナキュラー建築が残るモンサント村や、ブラジルに到達したペドロ・アルヴァル・エスカバル氏の生誕地であり、隠れユダヤ人が暮らしていたベルモンテ村などが含まれています。そしてここカルテロノーボもその村の一つです。
山岳地帯の暮らしに以前から興味のある私にとって、中部での滞在はかねてから希望でした。滞在先はポルトガル中部の政府観光局のスタッフがアレンジしてくれたのですが、カステロノーボに滞在先が決まったのには理由があったそう。それは、「12の歴史地区の中で最も寛容性が高い村民が暮らしている村だから」ということでした。後に分かったことですが、この村には、他の街から移り住んできた移住者も多く暮らしていました。同じ地域にあっても、村々で住んでいる人の特性が違うのは不思議ですし、面白いですね。
ポルトガル一、暑くて寒い地域
中部へ到着したのは6月半ば。この地域はポルトガルの中で最も気温が高く、連日日中は35度以上の猛暑で湿気も多いです。
お昼ご飯を食べた後は無気力感に襲われるほど体力を消耗していました。しかし、滞在が始まってその翌週には降雨があったことで気温がぐんと下がり、ダウンを着用する人がいるほど寒くなりました。これも地球の気候変動の影響でしょうか。
家畜小屋がある伝統的な中部の家
カステロ・ノーボ村で滞在を受け入れてくれたのは、村でPedra Nova(ぺドラ・ノーヴァ)と呼ばれるポウサーダと呼ばれる宿を経営するミゲルさんとペドロさんご夫婦。
彼らが暮らすのは、元々ペドロさんのご両親が住んでいた家です。ペドロさんの母親は去年、コロナに感染して亡くなられてしまい、お会いすることが叶いませんでした。ペドロさんの母親は、1974年のカーネーション革命まで当時植民地だったアンゴラに住み、独立後にカバン1つでポルトガルへ帰国した引揚者でした。ペドロさんの母親が特別なわけではなく、この年代の人たちの多くがアフリカの植民地から革命を機にポルトガルへ移住した歴史を持っています。つまり、ポルトガルを知るには、これら植民地との歴史を知ることがとても大事なのです。
家は小さな聖堂と併設した作りをしていますが、内部では繋がっていません。
洋館のような内装で、博物館に住んでいるような心地でした。
こちらはこの村に建つ伝統的な家です。特徴は、居住するスペースの地下が家畜小屋になっていることです。そのため、入り口が上下に2箇所設けられています。昔は家畜小屋で豚などを飼育し、家畜から出る熱で自然に上階の居住スペースを温める効果もあったのだそう。
ミゲルさんとペドロさんご夫婦
ミゲルさんはもともと首都のリスボンで生まれ育ちましたが、ペドロさんとの出会いをきっかけにカステロ・ノーボに移住しました。二人は去年、この村で結婚式を挙げ、正式に婚姻されています。リスボンでの暮らしはミゲルさんにとって、とてもストレスが溜まるものだったようで、この静かで落ち着いた村での生活がしっくりきているのだそうです。ミゲルさんはこの地域の人たちから、「聖人」というあだ名が付けられるほど温厚で誠実な人です。彼の本業はインテリアデザイナーですが、副業としてポウサーダを運営をしています。
とにかく料理が上手いので、毎日色々なレシピを伝授してくれました。
ペドロさんは医者としてリスボンにある病院に勤務しており、基本的に週末のみカステロ・ノーボに戻ってきます。ファドと呼ばれるポルトガルの民謡歌謡が大好きで、ペドロさんが家にいるときは、いつも家にファドの切ない音色が響いていました。
またペドロさんは三島由紀夫の大ファン!家にはたくさんの書籍がありました。ポルトガル語の翻訳はフランス語からの翻訳が多いようで、原文で読めるのが羨ましいと話していました。
二人の共通の趣味は動物
ペドロさんの家ではペットとして、犬2匹、ロバ2匹、ネコ1匹。鶏を加えたらブレーメンの音楽隊が編成できるような動物たちを飼っています。2人共動物が大好きで、子どもに向けられるような愛情を注いでいます。
特にペドロさんは、医師という職業柄的、日々精神的なストレスが強くかかるそうで、たった1日しか休みがなくとも、村へ帰ってきてきます。動物と戯れると、ストレスが緩和されリラックスできると話していました。
ロバが飼育されている庭は、この地域の伝統的なつくりをしています。庭には小さなため井戸があり、これは山からくる水が灌漑用水(Levada)を通って家庭に供給されていた名残りだそうです。昔は各家庭の庭に菜園があり、野菜や果物を育てるのが当たり前だったそうで、そのための用水として使われていたのだそうです。
ポルトガルでのLGBT理解
ペドロさんとミゲルさんは世間一般でいうLGBTのカップルです。ポルトガル、特に地方などではまだまだLGBTに対して寛容な認識を持っていない人たちも多くいます。そんな彼らがカステロノーヴォで快適に暮らしているのも、この村が持つ多様性を受け入れる風土があるためだと言えるかもしれません。彼らのもとで半月ほど一緒に暮らしましたが、生活スタイルやさまざまな価値観が異なる部分においても、お互いを尊重し合っているのを感じました。男性女性という性別を超え、人間そのものとして相手をみるということが一緒に人生を歩む中でいかに大切かを学ばせてもらった気がします。
◎「都市と田舎」エッサ・デ・ケイロース