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世界でも数団体のみ!海の中で不発弾処理を行うNPO”JMAS”

  • 03.12.2019
  • パラオ Palau

こんにちは、モデル・定住旅行家のERIKOです。

前回のブログで、パラオと日本の関係についてお話しました。今回は、観光ではあまり知る機会が少ない、パラオで行われている支援活動をご紹介したいと思います。


株式会社インフォメーション・ディベロプメントさんが支援を行なっている、認定特定非営利活動法人 日本地雷処理を支援する会(Japan Mine Action Service)パラオの活動です。

JMASは世界で爆発物に苦しむ地域や人びとを支援しているNPO団体です。陸上自衛隊退官者によって2002年に設立されました。地雷や不発弾等の処理を行いながら、現地の人びとに技術教育を行い、自発的発展に貢献しています。

パラオのコロール島に拠点を置くJMASパラオは、2012年に設置され、海上自衛隊退官者が爆発物の処理を行なっています。

オヤジにもできることがある!

JAMSパラオには、日本人7名とパラオ人3名がボランティアとして活動しています

その内日本人4名は潜水士で、海中で爆発物を撤去作業する技術を持っています。ちなみに、海中で不発弾処理を行なっているのは、世界中でも数少なく、世界に誇れる高度な活動を行なっているのです。

なぜパラオには爆発物がたくさんあるのか?

「パラオ」と聞くと、我々日本人はリゾート地やダイビングが楽しめる場所を想像しますが、実は第二次世界大戦中は米国の攻撃対象国だったのです。

パラオは19世紀後半以降スペインに統治されますが、その後ドイツの植民地となり、第一次大戦後には1914年から30年に渡り、日本の国際連盟委任統治領となりました。
第二次世界大戦が始まると、パラオは日本海軍の基地となったため、米国の攻撃対象となりました。戦時中なんと2800トンもの砲爆弾がパラオに発射・投下されたのです。パラオ近郊の海には大型船約30隻以上の日本の船が沈んでいます。そのほとんどが、マラカル湾に沈む1944年3月30日のパラオ大空襲で沈んだ船です。
爆発性戦争残存物(Explosive Remnants of War  通称ERW)と呼ばれる爆発物は、現在も地上や地下、海中に残されたままとなっているのです。

また、日本語で残っている沈船資料はほとんどなく、アメリカ軍が残したものを頼りにしているのだそうです。
現在、マラカル湾に沈んでいる船は、あまつ丸、浦上丸、ヘルメット・レック、忠洋丸などが確認されています。JMASパラオは2012年から現在までに30隻以上の沈船をモニタリングし、いくつかの船でERWの処理やピクリン酸漏洩補修作業、油漏洩補修作業を行なっています。

パラオで爆発物を処理している国


Norgian Peoples Aids(NPA)

現在パラオにて爆発性戦争残存物(ERW)撤去・処理を行なっているのは、ノルウェーのNorgian Peoples Aids(NPA)、イギリスのClear Grand Dimining(CGD)と日本のJMASの3団体です。特にNPAとはERWの処理を中心に積極的に協力を行いながら、活動をしています。また、CGDは主にペリリュー島にて残っている不発弾の処理などを行なっています。

作業時間は10分だけ!沈船に眠る爆発物の処理


JMASパラオさんが普段行なっているのは、沈船や浅海域のERWの調査・モニタリングとその処理、ピクリン酸漏洩補修作業、油漏洩補修作業などです。船は大体水深20m~40mに沈んでおり、アプローチは深いところで水深約40mもあります。私が同行させてもらった時にアプローチしていた浦上丸という船は水深40m付近に沈んでおり、この水深で潜水できる時間は10分と限られていました。また海底到着までと、上昇する時間を省くと、海底で作業できる時間はおよそ5分ほどしかありません。視界も不良で非常にテクニカルな技術を要する特殊な作業なのです。
日によって調査や作業内容は異なりますが、午前中と午後2回ダイブする日も多く、相当な体力と忍耐力が必要となります。
ちなみに、水深40mのような場所で作業をしていると、体内から窒素ガスが出て、意識が朦朧としたり、物事の判断が遅れたりする症状が出やすい状態になります。それは窒素酔いなどとも呼ばれ、お酒のマティーニとかけて、「マティーニの法則」とも呼ばれているそうです。窒素酔いに加え、海の埃と言われる海底堆積物が舞って視界が悪くなる中での作業は、神経がすり減るような作業に等しいのです。

海中で砲弾箱を手作業でビニール製の袋へ入れ、バルーンを使って引き上げる

引き上げたERWを処理場へ移動させる


NPAの爆発処理現場

ダイバーにも被害が!ピクリン酸とは?

 

爆発物から漏れ出すピクリン酸

JMASパラオさんが行なっている作業の中に、「ピクリン酸漏洩補修作業」というものがあります。ピクリン酸は爆薬の一種で下瀬火薬に使われている、黄色した無臭の結晶です。これらは、第二次世界大戦主要爆薬として使われていたもので、主に爆雷から漏れ出している物質です。
これは海水汚染を促進するとともに、人間の皮膚に触れると、頭痛、めまい、皮膚疹を生じることがある物質で、ダイバーなどへも悪影響をもたらす恐ろしい物質です。
その漏洩を防止するため、水中セメントで(樹脂)で漏洩部分を固める作業を行なっています。
マラカル湾に沈むヘルメットレックと呼ばれる沈船からは、潜水艦を攻撃する爆雷が165発以上残っているのが確認されており、ピクリン酸が漏れ出しています。

技術のバトンを繋ぐ使命 潜水士の篠山さん

JMASパラオの潜水士として活躍されて3年目の篠山浩司さん。現在の活動状況などを伺ってみました。

Q、現在行っている具体的な作業はどのようなものですか?

A、現在は、マラカル湾に沈んでいる浦上丸に積まれている砲弾(弾薬箱)の引き上げを主に行っています。

Q、非常に体力のいる大変な作業だと感じましたが、やりがいを感じる時はどのような時でしょうか?

A、そうですね、やはり我々の任務でもあるERWを安全に処理でき、パラオの海の安全に貢献することが出来る時に非常にやりがいを感じます。

Q、今後はどのような活動に注力されていきたいですか?

A、これまでやっていたERWの処理はもちろんですが、それと同時にパラオ人に不発弾処理方法や潜水士の育成を指導していくことです。将来的にはもし我々のような支援団体がなくなってしまったとしても、継続してパラオ人がERWの処理を行なっていける体制を作っていけるようにしたいです。

我々は、自衛隊にいた時に大変厳しい潜水訓練や、爆発物処理の勉強を重ねてきました。パラオには軍隊はありませんし、我々が受けてきたような厳しい指導が彼らに適しているかなど、指導していく上でも課題はたくさんあると思います。

現在、JMASには2人ほどパラオ人のダイバーがいます。力も体力もあり、海中でもいいパフォーマンスを見せてくれているので、パラオ人の潜在能力に期待しています。

パラオに滞在中、彼らの任務に同行させてもらい、近い場所で活動の様子を見させて頂きました。彼らの活動は、大変という言葉だけでは済まされない、命をかけたボランティア活動です。これまで戦争という言葉に疎い世代に生まれた私が、戦争と間接的な関わりを持っていたのは、捕虜としてシベリアに抑留していた故祖父との間だけでした。

パラオの海の底から次々と引き上げられる爆雷や砲弾箱。それらを目の当たりにした後、パラオの海を眺めると、それは単に美しいだけではなく、ここで繰り広げられた見ることのない歴史が想起されて様々な思いが交錯し、深みを持って見えてくるのでした。

This trip produced by Information Development