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アラサーイタリア人、マリアンネのキャリア選択

南イタリアへ来る最大の理由となった、マリアンネとのロシアでの出会い。日本にいるとイタリアのイメージというのは偏っていて、ラテンでロマンチスト、歴史の国などのイメージがありますが、人びとの生活の様子というと、あまり具体的なイメージが湧きづらいかと思います。

ここ約10年間ほどイタリアは、経済危機の状態が続いています。その影響は人びとの生活や人生にも影響を大きく及ぼしていると言えます。マリアンナさんの人生から見えてくる、現在のイタリアの断片をお伝えしたいと思います。

自国でなく海外で働く決意

私は人生のほとんどを海外で過ごしました。現在、30歳になりますが、18歳で英語を学ぶためイギリスへ留学しました。イギリスではパキスタン人の家族の家にホームステイしていて、イタリアとは異なった文化や習慣に様々な形で出会い、それをきっかけに私のマインドが開いたと思います。

20歳で地元に帰って、ホテルで働いていましたが、経済危機が訪れて仕事がなくなりました。イタリアでは、どんなスキルやいい経歴を持っている人より、会社を経営する人の家族や親戚を優先に人を雇うので、会社の利益発展というよりも、家族や親戚関係を優先するんです。これもイタリアがなかなか経済が良くならない一つの大きな理由だと思いますが。

仕事がなくなって、これ以上国内で仕事を探すより、海外で働こうと思い、インターネットで職探しをしました。すると、スペインのイビザ島のホテルに募集があり、応募して仕事が決まり、イビザ島で働き始めました。行った頃はスペイン語は話せませんでしたが、仕事をしながら勉強して、話せるようになりました。イビザ島というと、パーティーの島というイメージがあると思いますが、歴史や文化があり、とても興味深い場所です。
イビザ島の仕事の契約が終わった後も、ヨーロッパを転々としながら働きながら暮らす生活を送っていました。

30歳で決断したこと

旅をするのは好きですし、生活拠点を変えながら転々と仕事するのは楽しかったのですが、去年の秋、地元に戻ってきました。

その理由は、自分の人生で一番大切なものは何かと考えたとき、”家族”という答えだったんです。
幸運にも、私の家は、マッセリーアと呼ばれるプーリヤ地方独特の農園主の館を持っており、敷地が広く、それを活かせば色んなことをやるチャンスがあるんです。自分が好きなことと、家族と一緒にいるということを第一に考えたとき、自宅を改装して宿泊施設にして、いろんな文化事業を行おうと思いました。今、その準備を進めています。
外国人を呼べば自分が旅に出なくても色んな国籍の人と接することができますし、大事な家族の側にもいられることができます。

私は、情熱を捧げらないものは、仕事とは言えないと思っています。でも残念ながら今のイタリアの若者は、夢を見ることを忘れてしまっているんです。大学で専門的な知識を学んでも、それを活かせる場所や仕事がない。職につけるだけでもありがたい状況なのだから、なんでもよくなってしまう。最低限の生活を送るためのお金を稼ぐのに必死で、夢を抱くことを考えなくなってしまっているんです。

この間、3歳の従兄弟に、「大人になっても仕事がないから、僕はいずれイタリアを出ていかなければならないんだ」と言われた時には、ドキッとしました。

女性としての将来

将来は子供も欲しいし、家族も欲しいと思っています。その反面、自分はこの夢にチャレンジしたいと思っています。
その時、今のパートナーが協力してくれるか、理解してくれるかはとても大切なことです。結婚には失敗したくないですから、一時的な感情でするものではなく、しっかりとお互いの価値観や人生観を話し合ってから決めたいと思っています。
もし、恋愛と自分の夢のどちらかと考えたら、私は自分の夢をとります。結婚して暮らすということは、ある種の犠牲を伴うことでもあると思います。

人生に影響を与えた人物

お姉ちゃんです。私は末っ子で、3人のお兄ちゃんとお姉ちゃんがいるんですが、一人は障害を持っているんです。子どもの頃から、彼女が人に傷つくようなことをされたり、いじめられたりするのを一番近くで見てきました。そのお陰で、私は繊細さを得ることができました。それは彼女がいなければ私には身につかなかった感性だったと思います。人の気持ちが分かるようになった点で彼女には感謝していますし、生涯寄り添って彼女のケアーをしていきたいと思っています。

地元で暮らすということ

この土地で暮らす人々は、外国人はおろか、観光客も珍しいので、外国人や違う価値観を持っている人と接する機会がなく閉鎖的です。多分私の街で英語が話せるのは、片手で数えられるくらいでしょう。海外へ出たことのない人は、偏見や価値観がとても偏っていて、国際的な感覚からはほど遠いのが現状です。

例えば、時間や約束を守らない、ゴミを道に捨てる、物を盗むなど、海外へ出れば当たり前のことが分からない人が多いんです。私も昔はその一人でした。でも、今は国際人としての常識を海外で暮らすことで学んだので、地元に戻って来て、そのギャップにストレスを感じてしまうときがあります。
ここで人として正しいことを行うことは、良いことではなく、ただの愚か者のように評価されます。

イタリア社会の若者のキャリア選択

マリアンナのように、若い頃から海外へ出稼ぎに出る人がイタリアでは多く見かけます。大きな街はいいのですが、田舎となると、顕著に年寄りが増え、若い人が減っていくような状態が続いています。彼女が辿っているキャリアは、現代のイタリア社会に大きく影響されています。

マリアンナの家は以前紹介した通り、とてもリッチな家族です。きっと、彼女が働くなくても一生問題なく生きていけるほどです。しかし、マリアンナは家族に頼っていくのではなく、自分で自分の人生を開いていこうとしています。

繊細な性格上に常に周りに気を配って、くたびれた表情を見せることもあれば、人を疑えない性格から騙されたり、利用されたりすることもありますが、それでも人を信じ続ける気持ちを持っています。
人はそんな彼女に変わった方がいいといいますが、私は彼女の素敵な宝だと思っています。

彼女が秋にOPENする予定の宿泊施設
Masseria Ditattica La Bella