ちきゅうの暮らしかた ERIKO OFFICIAL WEB SITE

グリーンランド人の日常生活

こんにちは、定住旅行家のERIKOです。グリーンランド最初の定住地、西部のイルリサットに暮らすダービセン一家の住まいや暮らしについてお話をしたいと思います。
私が滞在したのは9月下旬から10月中旬までの秋の時期。気温は平均すると0℃~-5℃くらいでした。最近は温暖化の影響で気温が上昇し、これまで降らなかった雨も多くなっているようで、大きな気候変動をもたらしています。

土地代無料のグリーンランド


こちらがダービセン一家が暮らす家です。イルリサットの土地は永久凍土の混じった泥土で、地面は夏に地中の氷が溶けてが凹み、冬に再び凍結して盛り上がる性質を持っているため、家は土の上に建てられれず、全て岩の上に建てられています。


近年の気候変動の影響で冬と夏に土が盛り上がりがひどくなっていて道路なども湾曲してきています。

グリーンランドでは土地を購入することができないため、家の建設を希望する人は政府に申し出て、許可された場所に建てます。資材などはデンマーク経由で輸入されるため、家の建設にはとてつもない費用がかかります。例えば家族4人が暮らせるサイズの一軒家ですと、平均で5、6000千万位が相場です。

玄関は扉を開けると上着と靴を脱ぐスパースがあり、もう一つの扉が部屋に続いています。この2重扉が設けてある作りは、シベリアなど寒い地域と共通しています。

温暖化によるエアコンの取り付け


こちらはキッチンダイニングと同じ空間にあるリビングです。グリーンランドでは今年の夏、過去最高気温が記録されたことでも話題になりましたが、2、3年ほど前から多くの家庭にエアコンが取り付けられるようにもなったそうです。陽光を多く取り入れられるように大きな窓がたくさんあるため、夏は日差しで室内が高温になってしまいます。北欧諸国でさえ冷房機能がついたエアコンがある家はほとんどないのに、どれほど気候が変化しているかが分かる一つの例だと思います。
キッチンや家具は、シンプルで効率的に作られており、デンマークの一般家庭とほぼ変わらない印象です。

呪いの人形「トゥピラック」


こちらはトゥピラックと呼ばれる、クジラ、アザラシ、イッカク、トナカイの骨などで作られているカラーリット伝統の悪霊像です。元々は人を呪うためにシャーマンが操っていた人形で、壊れやすく使い捨てのものが使れていたのですが、この土地にやってきたヨーロッパ人によって、現在のようなトゥピラックが彫られるようになりました。
昔のシャーマンが用いた方法は、トゥピラックを集め、呪文を念じ、海や殺したい相手のもとへ送り禍いが起こるようにしていました。しかし、もし相手がそれよりも強いパワーのトゥピラックを持っていた場合は、自らが送ったパワーがブーメランのように跳ね返ってしまう危険なものでもあったようです。
今ではグリーンランドの代表的なお土産やオブジェとしてカラーリット人の多くの家に飾られています。 

マティスやピカソに影響を与えた仮面


こちらの仮面も多くの家庭に飾られているものの一つです。素材は木でできており、黒色はすすで塗られています。他人や精霊に対して自分のアイデンティティを隠すものとして使われていました。マスク文化の発祥は東グリーンランドで、踊り、劇、家のマスクなどの種類がありました。家に飾るのは家屋と家族の成員を守ってもらうためです。マスクの面に彫られている線は、イヌイットの人たちが顔に彫るタトゥーとも共通した意味を持っています。
グリーンランドの一部の地域では、毎年1月6日に動物の皮で作った仮面をつけて近所を訪ね回り、お菓子、パン、小銭を要求する習慣があります。まるでハロウィンのTrick a Treatみたいですね。
このイヌイットのマスクは、画家のアンリ・マティスやピカソに制作のインスピレーションを与えたと言われています。

近所が共同で運営する家


ダービセンさんの家はAndelsboligerと呼ばれる協同組合住宅という仕組みの中にあります。この一角にある9家族が共同で出資をし、ガス代、外壁などの修理費をみんなで負担しています。Andelsboligerは、さまざまな形態があるのですが、ここでは政府が住宅建設費の33%をローン負担してくれるシステムがとられています。


リビングからは立派な氷河が聳える北極海が見えます。家族のジョンさんは、ここから波や天気の様子を観察して、その日猟に出られるかどうかなどを判断します。こんなに毎日夕日を見たのはいつぶりだろうと思いながら、日々北へ北へ移動していく太陽を眺めていました。


晴天の日の夜は23時過ぎになると、夜空をオーロラが舞います。滞在中はほぼ毎日オーロラが出ていました。写真だとより鮮やかに見えますが、実際の色はぼんやりとした緑やピンク色で、誰かに息でも吹きかけられているかのような不思議なゆらめきをしています。実際に一人でぼーっと眺めていると美しいというより怖さの方が優ってきます。
グリーンランドにはオーロラにまつわるたくさんの物語があります。オーロラの揺れが大きいのは、死者がアザラシとサッカーをしていて、子どもが外に出るとさらわれるという逸話があったりします。
リザベスさんは「子どもの頃、口笛を吹くとそれに合わせてオーロラが早く動くと言われ、それを見るのが怖かった」と話していました。


家事は夫婦が役割分担しながら行います。リザベスさんは平日の朝から夕方までは仕事に出かけているため、ジョンさんが仕事の合間に掃除、食事の準備などを行います。リザベスさん曰く、「私が家事ができるようにトレーニングした」と冗談まじり言っていましたが、カラーリット人の多くは男性は猟へ出かけ、家事は女性がするものと考える人もまだまだ多いようです。

主食は彼らが夏の時期に獲ったトナカイやクジラ、魚などを冷凍保存したものを使用する分だけ解凍し、調理します。パン、野菜、調味料、嗜好品などは週3~4回程度スーパーマーケットで購入します。グリーンランドで売られている商品のほとんどは輸入物のため、物価が日本の2~3倍しますが、消費税はありません。ちなみに通貨はデンマークと同じ、デンマーククローネが使われています。

スポーツ大好き一家


リザベスさんとジョンさんの趣味はトレイルランニング。毎年3日間を通して行われる大会にも出場しているそうです。リザベスさんは週に2回、仕事終わりに町に唯一のスポーツセンターのグループトレーニングに通っています。私も毎回同行させてもらいましたが、2日後には二人とも筋肉痛で椅子から立ち上がる度に「あ゛ー!」と声を出していました。イルリサットではランニングしている人をよく見かけ、スポーツセンターはいつも大勢の人で賑わっていたりと、政府がスポーツすることを推進しているせいもありますが、カラーリット人は体を動かすのが好きな人が多いです。

空気読み、静かにしゃべるカラーリット人


親戚付き合いも大切にしています。週に何度かはジョンさんの親やいとこ、親戚の家で一緒に食事をとります。カラーリット人の食事は人をもてなす場合でも(誕生日でない限り)、普段彼らが食べる食事と同じものを出します。食べるのも早いので、ちゃっちゃと食べ終わるとソファーで編み物などをしながら雑談し、長居はほとんどせずに約2時間程度で帰ります。もちろん相手との関係性や個人差もあると思いますが、私の経験上そのようなケースが多かったです。

カラーリットの人たちと生活をしていて感じたのは、「相手の気持ちや行動を察する」ということと「大きな声で喋らない」ことです。あまりダイレクトにものを相手に伝えることは得意ではないようで、相手や状況の雰囲気を感じながら相手が不快に思わないように気を遣います。
ジョンさんは毎晩夜になると、テレビのボリュームは消して見ていたし、私の部屋は洗濯物を干すベランダへの通路だったのですが、こちらから「気にせず入ってください」というまで洗濯も控えていました。

また言語独自の特徴とも言えるかもしれませんが、カラーリットの人たちはとても静かに話をします。「デンマーク人はチョコレート1つで数時間話をする」と彼らが言うほど、口数も多い方ではなく、人と一緒にいるときでも沈黙の中にいられる人たちです。

カラーリット人は「インマカ」(多分)という表現を日常的に多く使いますが、天候などによってその日の予定が決まる狩猟をして生きてきた人たちの価値観が感じられる言葉です。天候やその場の状況によって何を判断するかを臨機応変に決めることが身体に備わっているような感じです。
中南米の人たちも、取り巻く環境に不便なことが多く、思ったようにことが運ばない環境にいるせいか、大変フレキシブルな対応ができる人たちですが、ある部分では適応に対処してしまうことも多いと感じます。一方、カラーリット人の場合は、フレキシブルでありながらもやることはしっかりやる人が多数派です。時間の感覚も日本人と極めて近いものを持っており、一度決めると時間通りに物事を進めますし、かなりテキパキとした人が多いため、たまに私でもついていくのがやっということもよくありました。

◎高橋美野梨さんが書かれた「自己決定権をめぐる政治学」
グリーンランドの国の仕組み、政治事情を知りたい方におすすめです。