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ヌーク家族の日常

こんにちは、定住旅行家のERIKOです。グリーンランドの首都ヌークでは、キルセンご夫婦の家に定住しています。ヌークは海と山に恵まれた地形で、トレッキング、カヤック、スキーなどさまざまなアクティビティを体験できる場所としても知られています。ヌークの街やキルセン家の生活はどんなものか、みていきたいと思います。

11家族が共同出資する住宅

キルセン家が暮らすのはヌーク市の北に位置する地区で、ヌークの象徴とも言える「サンミッツィア山」の雄大な景色が見える場所です。彼らの家もイルリサットのダービセン家同様、Andelsboligerと呼ばれる協同組合住宅という組織で運営され、同じ区画に居住する11家族が共同出資をしています。彼らの息子アダム夫婦も同じ区画に暮らしています。ヌークも家を建てるときの土地代は無料です。

家の中は常に暖かい温度が保たれています。暖房設備はグリーンランドで主流のパネル式のヒーターが部屋ごとに取り付けてあり、温水式のセントラルヒーティングで、家全体がまんべんなく温かなるようになっています。近年降水量が増えたせいで、湿気が家の中に溜まりやすくなっており、頻繁に換気を行い、バスルームの窓はいつも開いた状態にしてありました。


家はエントランスのある場所を地上階とし、半地下と中2階という構造で作られていました。芸術家イェンスさんの趣味で、家の中にはたくさんの絵画が飾ってあります。

ヌークを象徴する山


家の近所からは美しいセンミッツィアック山(Sermitsiaq)が見えます。北東に位置する標高1,210mのヌークのアイコン的な山で、ヌープカンゲルルアという全長160kmのフィヨルドを形成しています。この雄大な景色が見える場所に干潮になると渡れる島があります。
ここは過去にマレーシア資本の会社がホテルなど建設し、島を開発するという計画が持ち上がっていたそうです。ヌークの人びとにとって、人工物などによる視界の弊害は彼らから精神の安定を奪う行為だとして、イェンスさんをはじめとする多くの住民が抗議を行い、その計画は打ち切りになりました。そのお陰で現在でも島のそのままの姿を見ることができます。


ヌーク市内は舗装された道路があり、バスも走っていますが、人びとの移動は自家用車か徒歩が主流です。この岩がゴツゴツした道は、お母さんドルテさんの通勤路なのですが、そこそこ険しい岩山を超えて行かなければなりません。もちろん道路を利用しても目的地へ行くことはできるのですが、岩山のルートの方が近道なのです。また夜は視界が悪くなるため、必ずリフレクターをジャケットやバッグなどにつけておくことが大切です。

夫婦の家事分担


家事全般は主にドルテさんが行いますが、食後の後片付けやドルテさんの仕事の帰りが遅い日は、イェンスさんが担当します。お二人とも料理がとても上手です。ドルテさんは調理によく「ウル」と呼ばれるナイフを使います。このナイフはWoman Knifとも呼ばれ、イヌイットの女性がアザラシの肉を皮から剥がす時などに使っていた伝統的な調理器具です。

ずっと見ていても飽きないほど捌き方が見事です。ウルには地域によってたくさんの種類がありますが、ドルテさんはアラスカのウルが持ち手も安定していて使いやすいと言っていました。

食材の調達


週に1度は二人で市内にある大型スーパに、野菜、果物、パン、日用品などを買い出しに出かけます。肉・魚類などの主食はイェンスさんが猟で獲って来たものか、街の魚市場でクジラやアザラシ、魚、鳥肉などを購入します。魚市場に新鮮な肉や魚が届くと、市場のFBページで告知されるため、人びとはそれを見て売り切れてしまう前に駆けつけます。
以前にもカラーリット人はさっさと食べ食事の時間が短いということを書きました。カラーリット人のドルテさんは食事中、ほとんどしゃべらずに食べ物を飲み込んでいるのかと思う速さで平らげてしまう一方、デンマーク人のイェンスさんは、喋り出すと永遠に止まらないタイプで、しょっちゅうドルテさんに「しゃべらずに食べなさい」とよく注意されていました。カラーリット語で「お腹がいっぱい」というのを、直訳で「舌が空を向く」という面白い表現します。

閉鎖社会で生きていくためには


イルリサットとヌークに滞在した際、彼らの生活を見ていて印象的だったのが人との付き合い方です。全国で一番人口の多い首都のヌークでも2万人弱しか人がいませんから、ほとんどが顔見知り、知り合いという状態なのはご察し頂けると思います。
グリーンランド国内には町と町を繋ぐ道路もないため、人の往来頻度も他国に比べると圧倒的に少ないです。ですので、自分の生活を取り巻く相手は必然的に限定されます。そうなると、自分の人間関係は自分で決められるものでなく、環境に決められてしまうものとなり、嫌な人とでも付き合っていかなければなりません。
東京のような人で溢れたような環境では、苦手な人がいれば意図的に距離をとることもできますが、グリーンランドではそういったことは難しい環境にあります。
複数のカラーリットに人との付き合い方で心がけていることを聞いたところ、「優しさ、許すこと、尊敬」のこの3つが大切だという人が多かったです。また陰口を言うことはご法度で、よっぽどのことがない限り友だちにも話さないようにしているようでした。

◎グリーンランド北部に長年暮らす日本人の大島育雄さんの著書です。現地では腕のいいハンター、手作りのウル(ナイフ)など、ものづくりに長けた人としてグリーンランド人にも有名な方です。
キルセン夫婦も大島さんに会いに北部のカナック(現在は別の街に住んでおられます)まで行ったそうで、その時に彼が手作りしたウルを頂いたそうです。