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グリーンランドの食生活

こんにちは、定住旅行家のERIKOです。グリーンランド西部にあるイルリサットの町に定住しています。日々の暮らしの中でも大切なイベントの一つである食事ですが、グリーンランドにはどんな食文化があるのか見ていきたいと思います。

グリーンランドは北に北極海、東にグリーンランド海、南に大西洋と海に囲まれた島国で、最初の定住者がこの地にやって来てから、陸や海の生き物が大切な食料となっていました。スーパーマーケットで物が豊富に手に入る現在でも、狩猟を行い、それらが食卓に並ぶことが多いです。


こちらはお母さんリザベスさんの朝食です。ヨーグルトにフルーツやチアシードなどを入れて食べています。一般的な朝食はパンにチーズ、サラミ、ハムなどを挟んで食べるデンマークとほぼ同じです。食事の回数は朝、昼、晩と1日3回が基本ですが、昼間は猟に出かけていたり、会社にいることが多いので、家族が揃って食べることはなく、朝食と同じようなメニューで簡単に済ませることがほとんどです。家族が揃って食事をする1日のメインは夕食となります。

食料の調達


スーパーに売られているイッカクの肉
パン、野菜、フルーツ、香辛料などは主にスーパーマーケットで購入します。全ての物が輸入商品のため、物価はおよそ日本の2~3倍値段。パン類はデンマーク同様にたくさんの種類があり、フレッシュなパンを手に入れるために朝食の前に買いに出かけることもあります。スーパーに陳列されている品物は、鯨肉、トナカイ肉、ジャコウウシの肉などを除きデンマークとほとんど変わりません。

タンパク源となる肉や魚は、主に猟で獲得します。8月-10月はトナカイやジャコウウシ、11月はイッカク(イルリサット)、12月はベルーガ(白イルカと訳されますが、現地では鯨です)、鯨やアザラシ、魚は年中猟が可能です。
ハンティングの技術はグリーンランド人の男性が生きていく上で最も大事なことでした。現在でも男子は10際になると父親と一緒に狩猟に出かけ、フィールドで狩りを学びます。そのため学校には9月、11月にハンティングのためのハンティング休日なるものが設けられています。

アザラシ猟


こちらはイルリサットの家族のお父さんジョンさんとアザラシ猟へ出かけたときの様子です。小型ボートでアザラシがいそうなポイントまで移動し、呼吸するために顔を出すのを待ちます。場所選びのコツをジョンさんに聞くと、「波が立っていなくて、アザラシの匂いがするところ」と答えていました。アザラシが頭を出すのはほんの数秒で、黒い氷河や鳥などと極似しているため、違いをしっかりと見極めることが大事です。私は視力が両目それぞれ2.0以上あるため、双眼鏡を使わなくてもしっかりとアザラシの頭を確認できました。笑 ボートの上より氷河の上から狙った方が的が安定するのですが、最近は温暖化の影響で氷河が減少し、また割れやすくなっているで安全性が危ぶまれているそうです。


捕獲したアザラシは港に帰る前に解体し、人間が食べる部位、犬の餌(内臓)になる部位に分けます。昔はアザラシの皮は衣類に、骨はトゥピラックと呼ばれる呪術に使われる人形に、腸は窓や衣服にと余すことなく使われていたそうです。私も解体を教えてもらいましたが、硬い皮と柔らかい脂肪の部分をキレイにナイフで剥がすのはなかなか難しい作業でした。ちなみに気温が低いためか、全く生臭い臭いはしません。

グリーンランドの機能的なキッチン


グリーンランドのキッチンはデンマークとほぼ同じ作りをしています。シンプルなデザインで、大きな食洗機がついて、IHコンロです。猟で獲ったものは冷凍保存することも多いため、キッチンにあるのは冷蔵庫のみで、冷凍BOXは大型のものが納谷にあります。毎朝ここからその日の夜に食べるものを取り出して解凍します。


これは「ウル」と呼ばれる“女性のナイフ”と呼ばれているもので、カラーリットの女性が昔からアザラシやシロクマなどの肉を皮から剥がす時に使っていた伝統的なナイフです。どの家庭でも使われており、家のオブジェとして飾ってあるのもよく見かけます。ちなみに写真右上のウルは、グリーンランドで有名なハンターでもある日本人の大島育雄さんが作られたものです。地域によってウルの持ち手部分やナイフの形が異なります。


食事の際、塩、胡椒に以外によく使われる調味料があります。それが「AROMAT」と呼ばれるもので、クノール社が販売している黄色粉末なのですが、干した樺太ししゃもや色々なものにかけて食べると癖になる万能調味料です。また醤油はどの家庭にもある欠かせない調味料の一つとして、鯨やイッカクの生肉、甘エビを食べる時につけて食べます。

1日で一番大切な食事「夕食」


グリーンランドの夕食は、生野菜とフルーツをあえたサラダ、茹でたジャガイモとにんじん+主食(肉or魚)が定番です。大皿に入ったものを一人ずつ回しながら自分の分を取り分けるスタイルです。カトラリーはナイフとフォークを使用しますが、トナカイ肉、鯨肉、樺太ししゃもなどは手で食べるのが基本です。(ソースなどがかかっていない場合)どの国でもその土地の人びとにとって大切な食べ物や国民食は手で食べることが多いですが、彼らの場合は上記の食べ物がそれに値するのでしょう。
食事の際によく飲まれるのはベリージュースや炭酸ジュースです。ベリージュースは原液を水と割って飲みます。贅沢をする日は、水やジュースに氷河のかけらを入れて飲みます。透明な氷は塩分がほとんどなく、これがなんともいえず飲み物を美味しくするのです。
カラーリット人の食事の特徴は、なんと言っても食べるのが早いことです!私が半分食べ終わったくらいで、彼らはすでに完食していることもしょっちゅう。週末に親戚たちと食事をするときも、ダラダラ食べることはなく、あっという間に食事が終わってしまいます。

グリーンランド定番料理

グリーンランド滞在中によく食べた食事をご紹介したいと思います。

クジラ


こちらはクジラを焼いてブラウンソースを添えたものです。クジラというと硬くて臭いイメージがある方もいらっしゃると思いますが、グリーンランドのクジラ肉は新鮮というのもあると思いますが、鶏肉の方が臭うと感じるほど全く臭みもクセもない肉です。


私の大好物になった冬場に食べる「クジラのスープ」脂の多いクジラの皮を使ったスープで、出汁が効いていて、体も温まり、肌もツヤツヤになります。

アザラシ


こちらは私とジョンさんが獲ったアザラシの煮込みをブラウンソースで絡めたものです。アザラシ肉は部位によって味が多少異なりますが、食べ応えのある魚のような感じです。アザラシの血抜き加減にもよりますが、(打ちどころが悪いと血抜きがうまくできず臭うこともあるようです)若干イワシの味がします。グリーンランドへ来るデンマーク人は、クジラもアザラシの肉も食べない人が多いようで、家族は外国人の私が本当にアザラシを食べてくれるかドキドキしていたようですが、とても美味かつ健康的で好きになりました。

カリブー

トナカイは以前滞在していたフィンランドの北極圏のサーミ族の家庭でも食べたことがありますが、その時の味の印象とは全く異なりました。サーミのトナカイはクセが強く、食べた翌日も身体がトナカイ肉の臭いがしていたのですが、グリーンランドのカリブーはクセは一切なく、甘い味がします。サーミ族のトナカイは彼らが管理飼育しているもので、グリーンランドのカリブーは野生で育ったものという違いが味に差を生んでいるのかもしれません。カリブーは日本に持ち帰って食べたいくらい美味しいです。

樺太ししゃも


日本で目にするししゃもの3倍の大きさがある樺太ししゃもは、昔からイヌイットの人たちにとって大切な保存食でもありました。夏に大量に樺太ししゃもがやってくるのを獲り、冷凍保存したり、乾燥させたりして1年中食べます。乾燥ししゃも食べだすとスナック菓子のように止まらなくなります。

サーモン


グリーンランドに来ることがあれば絶対食べておいた方が良いものの一つがサーモンです。その理由はとても美味しいというのは当たり前ですが、他国に輸出されていない魚のため、ここでしか味わうことができないからです。サーモンを食べるときは、お米(バスマティライス)と一緒に食べることも多いです。グリーンランド国内でサケが遡上する川は、ヌーク近辺の1箇所しかないそうです。

マッタック

誕生日や特別なお祝いの日などに用意されることが多いのがこちらのマクタックです。クジラの皮下脂肪がついた皮を際の目にしたイヌイットの伝統的な食べ物です。特にイッカクと呼ばれる長い牙を持ったクジラから取れるものは絶品で、ご馳走とされています。一般的には醤油や塩をつけて食べられます。

ERIKOの一押し!


特に私のお気に入りになったのは、「アザラシの脂肪の生肉」です!見た目は少々グロテスクですが、思い出すとよだれが出そうなほど美味しいのです。半解凍状態のものを食べるのですが、臭いは全くなく、舌に乗せた瞬間に口の中で脂肪が溶けていく食感がうまさを引き立てます。食べすぎるとお腹を壊すそうなので、少量しか食べれませんが、塩やAROMAT、醤油などと一緒に食べると絶品です。

食べることは生き物の情報を自分に取り入れること

上記の食事から見ても分かるように、主食になるものは自分たちの手で自然から獲ったものがほとんどです。カラーリット人からすると、人間にコントロールされた、どんな餌を食べているかわからない狭い小屋で育つ豚や鳥などの生き物に対して少し抵抗があるのではと感じました。私たちが生き物を食べるということは、その生き物が持つ情報を自分の中に全て取り入れることと同じです。ある時ジョンさんが話してくれたのですが、「新鮮な動物の肉を食べることで、彼らが厳しい自然で生き延びた強いエネルギーを直接得られることができる」と。そのちからが彼らの生きるちからにもなっているのだと感じました。

タラの肝を使ったグリーンランド伝統スイーツ


食後はメロン、スイカ、グレープなどのフルーツを食べます。カラーリット人はフルーツが大好きで、キッチンにはいつも多種のフルーツが常備してあります。週末はアイスクリームやお菓子など平日よりも豪勢なデザートを食べます。

こちらは、グリーンランドの伝統的なデザート「ティグラット」です。グリーンランドには1600年代に捕鯨をしていたヨーロッパ人がタバコ、アルコール、砂糖、コーヒーを持ち込むまでそれらは存在していませんでした。そのため伝統的なお菓子やスイーツといわれるものはありませんが、それに近いものとして食べられていたのがこのティグラットです。材料はタラの肝とブルーベリー。すり潰したタラの肝をブルーベリーと和えてできる簡単なデザートです。甘いものが少なかった時代はご馳走だったと思います。

カラーリット人はコーヒーが大好き

デンマーク人同様、カラーリット人はとにかくコーヒーを四六時中飲んでいます。お父さんのジョンさんは、寝る寸前までコーヒーカップを手にしているほど。人の家やインタビューのために施設を訪ねたりすると、名前を聞いたりする前に必ずコーヒーか紅茶かどちらがいいかを聞かれます。出かけるときも猟に出るときも、コーヒーを入れた水筒を持ち歩いています。


こちらはグリーンランドハーブティーです。夏の時期に摘んだ花や植物を合わせて作った自家製のもので、ほとんどの家庭にあります。

グリーンランドの土地で獲れる動植物はビタミン・ミネラルが豊富に含まれており、非常に健康的で、余った食事や食べられなくなったものは全て犬の餌になるので、他国に比べ廃棄食が極めて少ないと感じます。しかし、近年は加工食品やファーストフード、お菓子などを食べる人が増え、肥満が増加しています。

私は滞在中、毎日上記の食事をモリモリと食べていたのですが、結果数キロも痩せ、筋肉質な感じになってしまいました。毎日海へ出ていたせいもあると思いますが、鯨肉とアザラシ肉は低カロリーなのに栄養素が豊富なため、それも関係しているのでは思っています。

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